風速は遠足メートル

第27話 初めてのラノベ

 結局、奥原とのやりとりが済んだ後も生徒会長に引き続きこき使われ、家に着く頃にはすっかり日が暮れていた。

 そこから簡単な飯を食って、食器洗って、オンライン講義受ける流れとなる。風呂に入ってしまえばそのままベッドへバタンキューしてしまうと己を奮い立たせ、しばらくはそのまま講義を受けていた。


「あだぁ~……」


 疲れに目がかすみ、一旦休憩をとることにした。時計を見ると時刻は22時……もうひと頑張りといったところか。


「ん?」


 すると、ふと目に入ったかばん。そこから乱雑に飛び出ていた教材の中に見慣れない本があった。確かラノベとかいうジャンルの本……そういえば奥原から図書として借りたんだったな。俺はそれを何気なにげなしに手に取る。


「どれどれ、転生したらなんちゃらかんちゃら……ってタイトル長っ!」


 タイトルで物語の大体を説明してしまってるではないか。俺は若干あきれ目をしつつも、借りた物をこのまま読まないで返すのもどうかと思う。息抜きがてら、少しだけ読んでみるかと表紙をめくってみた。

 小難しい小説とは異なり、最初のページにはキャラのイラストや紹介文、簡単な話の流れがあった。

 

成程なるほど……既製品きせいひんの登場人物へイメージを誘導しつつ、物語に入りやすくさせるという寸法か」


 ただ、こちらの想像力を削られる分、本としては補助輪付きの自転車というイメージを植え付けられるな。嫌味な思考を巡らせつつ、序盤を読み進めていく。


「ふむ、なかなかに読みやすいな」


 身構えていた感覚をほぐすかのように優しい文章。複雑な設定もこれならスラスラと頭に入る。そして、ところどころで入る挿絵。これがキャラのその時の情景をイメージさせてくれるには良い役割を担っている。当初は鬱陶しさを感じていた補助輪のアシスト機能も、これはこれで悪くない。気づけば重要な場面でついついこの挿絵を期待してしまう自分がいた。


「ほぅ、こいつなかなかにやるな」


 時刻は既に午前0時を回っている。しかしながら、俺はこれまで味わった事のない世界観、それに主人公が特有の能力で繰り広げる戦いについ夢中になっていた。


「あと30分、あと30分だけ読んだらオンライン講義に戻ろう」


 だが、そうもいかず……今度はヒロインとの行く末が気になってしまう。


「くそ、どうなってしまうのだ? 頼む、うまくいってくれ!」


 様々な人物が登場する中、主人公とヒロインは添い遂げられるのか? そんな心配から結局読むことを止められずにいた。


「あと少し、この章まで」


 時刻は既に午前2時を回っているのであった。

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