第9話 昼食タイム その2

 クラスメイトたちの慣れた手つきせいか……瞬く間に調理は進んでいき、昼食は完成をむかえる。

 本日のメニューはキノコたっぷりの醤油パスタとキノコのバターソテー、山菜の天ぷらという山の幸づくしメニューであった。さらに山菜の天ぷらは即席で作った天つゆ&数種類の塩でいただけるという徹底ぶり。学生が作る昼食とあなどっていたが、このレベルには文句のつけようがない。


「昼飯はできたかぁ~? 生徒たち~」


 すると、調理が終わる絶妙なタイミングで担任教師と職員室で見かけた女教師の2名がやってきた。


「A組の皆さん、今日もよろしくお願いしますね」


「あ~、腹減ったぁ」


 配膳スタイルは学食と同様、まずお金を払って料理を取りに来るセルフサービスだ。クラスメイト達が学校給食の係のように担任や他のクラスの生徒へ盛り付けをし、渡していく。俺と小枝は昼食代の徴収係まで依頼されたので、引き続き手伝いを行う。


「安藤、ほい。400円」


「あれ……300円じゃないんですか?」


 担任から渡されたお金は400円。先ほど小枝が徴収された額よりも100円多いような気がするが、いいのだろうか? 疑問に思っていると……。


「安藤君、実はゴニョゴニョ」


成程なるほど


 小枝から耳打ちされた情報によると、調理の手伝いに参加してない人は昼食代として、小枝が先ほど支払った金額(300円)よりもさらに追加で100円が加算されるらしい。

 昼飯代の割引システム。調理や手伝いが面倒な教師や生徒も多く支払うことで引け目を感じないし、貧乏学生は節約になってありがたい。よくできたシステムだと感心する。


「はい、先生方! 天ぷらお待ち!」


「お! 流石だなぁ、川岡」


 モブ男子A……奴の名が川岡ということが判明する。横で見る限り、あいつの揚げた天ぷらメチャクチャ旨そうだ。手つきも素早く、なんか本物の料理人のようだ。


「川ちゃんはね、割烹かっぽう料理屋さんのご子息なんですよ。料理の腕前がすごくて、おかげでウチのクラスが昼食調理の専属になるほど……でもでも、すごく好評なんです」


 感心している俺の様子から、小枝が勝手に解説をはさむ。クラスメイト達の手際の良さも、モブA川岡仕込みというわけか。目立たない奴だと侮っていたが、人間、何かしら光るものは一つは持っているものだ。

 こうして、昼飯代の徴収及び配膳を終え、俺たちも昼食にありつく運びとなった。調理実習室はワイワイガヤガヤと、まるで学食のような空気をかもし出している。


「うまい……」


 川岡が作ったパスタソースや、天ぷらは文句のつけようがないほどに旨い。しかも生徒たちの手による調理ということもあって、一般の料理よりも価格がリーズナブルに設定されている点も評価できる。この学校に来て、はじめて利点というものを見つけた瞬間かもしれない。


「にゃむにゃむ……ぎょぶのがじづけもじゃいこうじゃすねぇ~」


「??? 何を言ってんだ?」


 隣で飯を頬張る小枝が、どこの言語だかわからない言葉を発する。


「『今日の味付けも最高ですね』と言ったのです」


「いや、飲み込んでから喋れよ」


「すいません」


 てへっと舌を出す小枝。


「よし! 明日こそはちゃんと早起きして、みんなのお手伝いしますよ!」


「本当に大丈夫か? そもそも、なんで起きられないんだ? 夜更かし?」


「う~ん、それが謎なんですよねぇ。ちゃんと目覚ましを5つ、タイマーセットしているのに、みんな朝になると鳴らないんです」


「壊れてるんじゃないのか?」


「それがですね、あちこちに配置した目覚まし時計たちが、いつの間にか全部枕元にあるんです。これって不思議じゃないですか?」


「もういい。なんとなくわかった」


「え~、何がですぅ~??」


 お前が無意識に鳴っている目覚まし時計のスイッチを切ってるんだろう……といいかけて、あえてそこは教えてやらなかった。この分だと、明日も遅刻ギリギリだな……と内面でほくそ笑む意地の悪い俺であった。

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