第8話 昼食タイム その1

『カーン、カーン』


 お昼を知らせるチャイムが鳴る。昨日はコンビニで事前に買った弁当を、屋上で一人で食ったが、今日は何も持ち合わせていない。どうしたもんか。


(この学校、学食なんてのもあるのか?)


 それとなく、隣の小枝にでも聞いてみようかと思う矢先。


「よーし、みんなー! 昼飯だぞー!」


「おー!」


 茶髪が勢いよく声を上げ、それに呼応こおうするかにようにみんなも声を上げる。すかさず、一斉に教室を出て行った。


「安藤君も早く行きましょう♪」


「???」


 有無を言わさず、小枝に俺は制服のそでを引かれ、どこかへ連れていかれる。


「どこに連れていくんだ? 学食?」


けばわかりますよ」


 誘導されるがまま、到着した場所は調理実習室だった。中へ入るとクラスメイトどもはいそいそと調理を始めている。


「みんな、なにしてんだ?」 


「ウチの高校は裕福じゃないので学食がないのです。その代わり、生徒で食材を集めて、自首的にお昼を作ってるのです。あ、もちろん調理実習室の使用も許可されてますよ」


 どおりで、朝からキノコやら山菜やらを取りに行ったわけだと合点がいく。

 そういや昨日、学食がないからなんたらかんたら担任が言ってたのを思い出す。亜熱帯な連中との交流で、すっかり吹き飛んでいた。

 まぁ、なんにせよ、作ってくれる飯があるなら拒否する必要はないよな。


「お、二人とも来たね」


 こちらに気づいた南田が、ニコニコと袋に入った大量のパスタめんを持ってくる。


「安藤、早速だけど、皆の分のパスタを用意してもらっていい?」


「は……俺が? いや、料理はあまり得意じゃないのだが」


 朝のキノコ&山菜集めに続き、調理まで手伝わされるのか。自炊をしているわけだし、やってやれないこともないと思うが、みんなの分となると失敗は許されない。重圧プレッシャーというものが肩にのしかかる。


「大丈夫、そんな気負わないで。時間を測ってでるだけだからさ」


 そんなことを言われても。


「一人でみんなの分を用意するのは大変です。安藤君、私もお手伝いします!」


「さ、小枝……」


「みなまで言わないでください。学級委員ですから」


 小枝が決め顔でサムズアップを俺に向ける。こいつ、ドジなようで意外と頼れるのか? 一応学級委員も任されてるみたいだし。


「その前に、ぴよちゃんはアレね」


「ほぇ?」


 だが、南田が手を差し出した途端、その決め顔は泣き顔に変わる。


「ふぇ~ん、よろしくお願いしますぅぅぅ」


 小枝は300円を南田に渡した。


「お、おい、何してる!? カツアゲか?」


「ち、ちがうよ! 安藤、誤解しないで」


 南田に事情を聞くと、朝の材料集めに参加しなかった生徒はお昼代として300円を徴収する決まりらしい。こういった生徒がいるおかげで料理のレパートリーが増えるから地味に貴重だとか、そうでないとか。

 ちなみに参加した生徒はその労働の対価として、お昼代は100円でいいらしい。


「お前、カモなのね」


「ううう、早起きは苦手なんですぅ~」


 小枝は隣でグスングスンいいながら、俺と共にパスタを茹でる作業をする。

さっきの頼もしさはどこへやら……こいつはやっぱポンコツだ。

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