第6話 朝活 その1

「ふっ、だいぶ早く到着してしまったようだな」


 反省をこうも活かせる男も珍しい。そして、それが俺、安藤作仁の素晴らしい点でもある。俺は遅刻などありえないよう、始業開始1時間も前に学校へ到着した。

 昨日は転校初日である為、いきなり転校生が教室にいる事態を考慮したのがいけなかった。

 なんにせよ、ギリギリでの登校というのは芳しくない。バタバタしたスケジュールはあれこれと思考を乱す原因になりうるし、不測の事態にも対応できない。もう二度と遅刻などありえないよう、本日より以前のような生活スケジュールへ戻すことにした。

 一日のスタートはまず朝活から始まる。朝の誰もいない教室でゆったり勉強しながら、サンドイッチと缶コーヒーを頂き、ささやかだが癒しの時間を過ごす。


「……」


 はずだったのだが……朝も早くから教室は賑わっていた。


「やぁ、安藤。早いね」


 優等生っぽい奴、確か南田といったか? 奴が一番に話しかけてきて、クラスの連中もそれに連鎖するように声をかけてくる。


「安藤君、おはよー」(モブ女子)


「よう、おはー!」(モブ男子)


「おはピョン♪」(うさぎ)


 うさぎ……お前、やっぱりいるんだな。


「そうだ! クラスの朝活で、みんなで近くの山に山菜とキノコをりに行くんだけど……安藤もどうだい?」


「はぁ? さ、山菜? キノコ?」


 一瞬、頭がこんがらがる。ここは腐っても普通高だろう。なぜ、そんな農業高校みたいなことをするのだ?


「いいね! 転校生との交流も兼ねて行こうぜ!」


 すると突然、茶髪のチャラ男っぽい奴が背後から声をかけてくる。途端、俺は首に手を回され、そいつに引きずられていく。


「ま、待て! 俺は一言も行くなんて言ってないぞ!」


 こ、こいつ! 意外に力がある。ふ、振りほどけない。


「まぁまぁ、いいから」


「俺は朝活(勉強)したいんだ~!!」


「だから、朝活(山菜&キノコ)だろ~?」


 こうして半ば強制的に山菜&キノコ採りへ連行される。南田、チャラ男、モブ男子A、眼鏡をかけたモブ女子B、うさぎの計6人というメンバーであった。


♢♢♢


「くそ! なんで朝からこんなことになってんだ」


 学校の裏側にある山。森の幸は自由に解放されているようで、地域住民はよく取りに来るらしいとのこと。しかしながら、こんな労働は今までしたことがない。制服も靴も汚れるし、なにより朝から疲れる。こんなのが朝活とか……こいつらはバケモンか。


「あ、安藤君。中には食べられないものもあるから、どんどん聞いてね」


 体力のある男子は山菜を採る組で、どんどん上の方へと進んで行く。俺とモブ女子Bとうさぎは、このあたりでキノコを採る組となっていた。


「食えないやつとかもあるのか? 見た目だけだとさっぱりだ」


「地元民をなめたらダメだよ。このエリアにあるものは基本大丈夫だけど、斑点とかあるものには気を付けてね」


 ない胸を張って、自慢げな眼鏡女子のモブB。キノコとか、山菜の知識でマウントを取る姿勢にいささかイラつきながらも、黙ってキノコを竹製の背負しょいカゴへ入れていく。


「ともちゃーん! 採ってきたピョーン」


 大きな声がしたかと振り向くと、例のうさぎがこっちへけてくる。こいつ、鈍重どんじゅうそうなイメージとは裏腹に、意外と俊敏だ。うさぎの背負いカゴにはどっさりとキノコが入っていた。


「う、うさ美ちゃん! 採りすぎだよ」


「え~、だっていっぱい食べたいピョン。もっと採るピョン」


「採りすぎはダメだよ。山に感謝しつつ、今日の必要な分だけいただくんだから」


「え~、仕方ないピョンね~」


 眼鏡モブBにさとされると、ウサギはしぶしぶとそれを了承する。


「あ、安藤君。うさ美ちゃんがキノコいっぱい採ってくれたから、もう大丈夫だよ」


「へぇへぇ」


 鬱陶うっとうしそうに立ち上がり、俺はカゴを背負う。


「南田君たちももうすぐ戻ってくると思うから、私たちは先に降りてようか」


「そうしてもらえると助かる。もうクタクタだ」


 こうして、俺たち三人は一足先に山を下りたのであった。

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