エピローグ 再び都会へ……

 お昼を食べて午後。稲荷橋駅いなりばしえき

 小春たちは荷物を持ち、列車の到着を待っていた。今日で、お盆の期間は終わる。それは同時に、小春たちがそれぞれの家に帰る時が来たことを、示していた。もう少しだけ、ゆっくりしていきたい。いつも帰るときには、そう思ってしまう。

「おじいちゃん、おばあちゃん、ありがとう!」

 見送りに来てくれた健一と光代に、小春は頭を下げた。

「それに、お土産みやげまでたくさん貰っちゃって……!」

「いいの、いいの。一時はどうなるかと思ったけど、無事だったんじゃから。それが一番じゃからのう」

「本当にね。みんなも、帰り道も気をつけてね」

 健一と光代は、笑顔で小春たちに云う。

「お世話になりました。私たちにも、お土産をありがとうございます!」

 夏代が、手にしたお土産の袋を掲げて、頭を下げる。袋の中には、神山村の特産品がいくつも入っていた。ほとんどが食品だが、全て日持ちするように加工されたものだ。

「ありがとうございました!」

「お世話になりました!」

 秋奈と冬華も、お礼の言葉を告げる。

「また遊びにおいでね」

 光代が頷きながら、目を細めて小春たちを見つめる。

 やがて、神山駅の方角から列車が走ってきた。神山村に訪れた時と同じ、二両編成の列車は、稲荷橋駅のホームに入ってくると、所定の位置で停車した。

 ドアが開くと、小春たちは列車に乗り込み、四人掛けクロスシートに座った。小春は窓を開けると、健一と光代の手を握った。

「おじいちゃん、おばあちゃん、さようなら!」

「また来るんじゃぞ」

「いつでも待ってるからね」

 健一と光代が云い、小春は手を離す。

 それと同時に、列車のドアが閉まり、列車がゆっくりと動き出した。ディーゼルエンジンが唸り声を上げ、列車は速度を上げて稲荷橋駅を出発する。ホームを出ると、列車はさらに速度を上げて、線路を進んでいく。

「色々あったけど、楽しかったね!」

 小春が景色を眺めていると、秋奈がそう云った。

「そうだな」

 秋奈の言葉に、夏代も同意する。

「化野村に迷い込んだのは怖かったけど、紅楽荘で過ごす時間は、とても楽しかった。花火もバーベキューもできたし、道の駅に行くのも楽しかったな」

「ご飯もとても美味しかったねー。また食べたくなってきちゃった」

 冬華はそう云いながら、貰ったお菓子をつまんでいた。

「化野村から無事に帰ってこれたのも、神山村で夏のひと時を過ごせたのも、小春ちゃんのおかげね! ありがとう!」

「その通りだな。ありがとう、小春」

「小春ちゃん、ありがとう!」

 秋奈、夏代、冬華からお礼を云われて、小春は戸惑いつつも笑顔になった。

「皆さん……ありがとうございます!」

 小春は三人に向かって、頭を下げた。

 終わり良ければ、総て良し。そんな言葉を、小春は思い出していた。化野村に迷い込んだときは、もう二度と戻れないかもしれないと思った。だけど、ウコンさんとサコンさん、そして産土様に助けられた。それにあの時、私が皆さんに声を掛けなかったら、きっとこうして皆さんと一緒に帰ることはできなかったでしょう。

 こうして友達と一緒に居られることに、小春は嬉しさを感じていた。

「来年もまた……皆さんと一緒に神山村で過ごしたいです!」

「いいな。今から来年が楽しみだ!」

「本当ね! そして次こそは、冬華ちゃんもダムカレーを食べられるかも!?」

「ひえーっ! しばらくダムはいいですー!」

 小春たちは自分たち以外に誰もいない車内で、そんな他愛のない会話を繰り返す。

あぁ、これがいつもの光景です。気の置けない間柄の友達と、楽しいひと時を過ごす。何でもないようなこの時間が、とても大切なものだと思えてきました。

 その時、小春は窓の外に、稲荷神社を見た。

 産土神社でもある、神山村の稲荷神社。小春はそこに向かって、そっと頭を下げた。次のお正月には、初詣に行けるといいな。


 ウコンさん、サコンさん。

 またお会いできるのを、楽しみにしております。


 小春たちを乗せた列車は、終点の地方都市の駅に向かい、田んぼと山に囲まれた土地に敷かれた線路を走り続けていく。列車に揺られていくうちに、小春は眠くなり、やがてまぶたを閉じていった……。



おしまい

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化野村とお稲荷さん ルト @ruto_kun

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