第5章 三日日後半 第1話 逆行

 小春たちは、盛獄寺せいごくじ山門さんもんを出て走り出した。山門の外まで来ると、亡霊や魑魅魍魎はそれほど多くは無くなっていた。しかし、完全にいなくなったわけではない。それに、盛獄寺の山門からは、次から次へと亡霊や魑魅魍魎が出ていた。

 どうやらあの盛獄寺そのものが、亡霊や魑魅魍魎の発生装置のような役割を果たしているらしい。

 ウコンとサコンは、前後に分かれて小春たちを護衛ごえいしながら、駅へと向かっていく。前方から襲い掛かってくる亡霊や魑魅魍魎はウコンが、後方から来るものはサコンが斬り捨てていく。

「駅までもう少しッス!」

「はっ、はい!」

 ウコンの言葉に、小春は頷く。

「サコン! 後ろは大丈夫ッスか!?」

「なんとか、持ちこたえたぞ!」

 サコンの答えに、小春は安心した。後ろから追いかけられていると思うと、かなりの恐怖が沸き上がってくるためだ。

 後は駅まで逃げたら、もう安心できるのでしょうか?

 小春がそんなことを考えていた時、後ろから叫び声が聞こえた。

「大変だ! ウコン、マズいぞ!」

「どうしたッスか!?」

「空を見るんだ!」

 ウコンが立ち止まったことで、小春たちも同じように立ち止まった。

 振り返ったウコンは、これまで走ってきた景色を見て、顔を引きつらせていた。

「こっ、これはかなりヤバイことになってきたッス!」

「なっ……何が起きたんですか?」

 小春は気になって、ウコンと同じように振り向いた。

 そこで小春は、信じられないものを目の当たりにした。



 盛獄寺があった方角から、全ての色が消えていた。

 少しずつ、まるで退色して色あせていくように、視界から色が消えていく。紫色をしていた空も例外ではなく、少しずつ白黒へと変わっていく。

 何が起こっているのか、小春たちにはまるで分からなかった。目がおかしいのかと思った小春は、何度かまばたきをした。しかし、景色が白黒へと変わっていくのは止まらない。

「あれは、一体……?」

「マズいぞ、時間が過去に向かい始めている」

 サコンの言葉に、秋奈が口を開いた。

「どうなっちゃうの!?」

「このままだと、逆行した時間の中に閉じ込められてしまう。そうなったら、もう化野村から出られなくなってしまう」

「そんな!」

「大丈夫ッスよ。まだ間に合うッス!」

 ウコンの言葉に、小春たちはウコンを見た。

「あの速度だと、まだ時間に余裕があるッス。大急ぎで駅に行って、化野村から脱出するッスよ!」

「そうだな。それ以外に方法は無い。急ごう!」

「はっ、はい!」

 再びウコンが走り出し、小春たちもそれに続いた。

 時間が逆行して過去に向かい出すと、景色から色が消えて白黒の世界へと変わっていく。信じられないことだったが、目の前で起きていることを、小春は否定できなかった。持っているスマホで動画を撮影したい気持ちになったが、とてもそんなことをしている余裕は無かった。

 早くこの化野村から脱出しないと、逆行した時間の中に閉じ込められる。永遠に、化野村から出られなくなってしまう。そう考えると、そんなことはできなかった。逃げようとする生存本能の方が、圧倒的に勝っていた。

 こんな村に閉じ込められて、永遠に出られなくなるなんて、死んでも嫌だ!

 小春たちはそんな思いを抱えながら、必死になって走り続けた。



 そして小春たちは、化野駅へと辿り着いた。

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