第4章 三日日中頃 第4話 逃走

「こうなったら、方法は一つしかない! 強行突破だ!」

 サコンはウコンと目配めくばせをする。ウコンは頷くと、小春たちに向き直った。

「逃げるッスよ! 化野村から、脱出するッス!」

「はっ、はい!」

 小春はウコンの指示に、二つ返事で頷いた。夏代に秋奈、冬華も頷き、誰も反対する者は出ない。すでに小春たちの心は、最初に戻っていた。

「オラオラ、どけッス!」

「ひいいっ!」

 ウコンが、村人たちの亡霊に霊撃刀を向け、道を開いていく。村人たちの亡霊は、誰もウコンとサコンに手出しができない。

「捕えろ! 逃がすな!」

 近藤が叫んだが、村人たちの亡霊は動けなかった。ウコンとサコンを止めることは、誰であってもできる。しかし止めようとした瞬間、切られる。それが分かっているからこそ、誰も動かない。

 目の前を、小春たちが駆け抜けていく。その様子を、村人たちの亡霊は、見つめていることしかできなかった。



 洞窟の入り口から、小春たちは外に出た。空はまだ紫色をしている。あの紫色の空を見ていると、目がクラクラしてきそうだった。

「これから、線路を辿って化野村から脱出する!」

「オレたちについてくるッスよ!」

 はい! どこまでもついていきます!

 小春はそう思いながら、三人を見た。三人は息を切らしつつも、小春に向かって親指を立てた。

 これなら、大丈夫みたいだ。

 小春は頷いて、ウコンとサコンに顔を向けた。

「お願いします!」

「ようし!」

 サコンは頷くと、ウコンと視線を交わした。

 ウコンも頷き、小春たちに目を向けた。

「化野駅まで、超特急で向かうッスよ!」

 ウコンとサコンに続き、小春たちは納骨堂へと向かった。納骨堂の先には墓地があり、その先には盛獄寺がある。そこから化野村に出て、化野駅までたどり着けば、後は線路を辿るだけだ。

 しかし、事はそう簡単には進まなかった。

「ギャーッ!」

 夏代が前方を見て、悲鳴をあげた。納骨堂の前に、死装束しにしようぞくを身にまとった亡者もうじやが、何人もいた。青白い顔で目だけギョロギョロとさせながら、集団になってうごめいている。小春にはそれが、ドクロを思い起こさせた。

 そして、夏代の悲鳴で、亡者たちが一斉にこちらを見た。

「絶対に、離れるんじゃないぞ!」

 サコンは小春たちにそう告げると、日本刀を構え直した。

「道を開けろ!」

 サコンはウコンと共に、亡者たちに切りかかった。

 亡者たちはその動きを恐れて、次々に墓場へと逃げていく。逃げ遅れた亡者は、サコンとウコンによって斬り捨てられた。霊撃刀の刃に触れた亡者は、やっぱり光の粒となって消えていった。

 納骨堂の前を通って、墓場に向かおうとした時、ウコンが叫んだ。

「あっ! ちょっと、マズいッス!」

「……っ!」

 サコンが納骨堂を見て、眉間にシワを寄せる。

「何か……?」

 小春はサコンの背後から、納骨堂を見ようとした。

「見るなっ!」

 サコンが前に手を出して、小春の視線を遮る。

「見たら、戻れなくなるぞ!」

「ひっ!」

 戻れなくなる。その言葉に、私は目を覆いそうになります。こんなところから、帰れなくなってしまうと考えると、自然と身体が固まりました。

「こっちだ! 墓場を大回りで迂回うかいして、寺の敷地から脱出する! ついてくるんだ!」

 サコンの言葉に、小春たちは続いた。納骨堂に背を向け、墓場へと足を踏み入れた。その中で小春は、納骨堂がどうなっていたのかが、気になっていた。

「一体……何があったのでしょうか……?」

 振り返りたくなる気持ちを必死で抑えながら、小春は前だけを見て走っていく。気にはなったが、見たら戻れなくなると思うと、見たい気持ちが弱くなった。

 隣に居る夏代ちゃんに秋奈ちゃん、冬華ちゃんのことも気になりますが、お寺から出るまでは前を見て走り続けます。

 小春はそう思いながら、前を走るサコンとウコンを見つめた。狭い墓場の中で霊撃刀を振り回しながら、魑魅魍魎や亡霊を斬り捨てていく。

 そして動きに合わせて、白い尻尾が左右に動く。あの真っ白な尻尾を、小春はどこかで見たような気がしてならなかった。

「フッ!」

「ハッ!」

 ウコンとサコンによって斬り捨てられた亡霊は、断末魔の悲鳴を上げ、光の粒となって紫色の空へ消えていく。消えていく光は綺麗だったが、小春はそれに当たらないように、避けて進んだ。

 墓地を進んでいった先には、盛獄寺の境内がある。境内にも、魑魅魍魎や亡霊がたくさんいた。灯籠に灯された紫色の火には、目玉まで浮かんでいる。小さい頃に見た、妖怪を題材にした映画のワンシーンを、小春は思い出した。

 境内に入ると、ウコンとサコンが振り返った。

「全員、いるか!?」

「は……はいっ、います!」

 サコンの問いかけに、小春が答えた。小春は自分の他に夏代、秋奈、冬華がちゃんといることを確認してから、サコンに告げた。

 サコンは頷くと、ウコンに向き直った。

「よし、盛獄寺を脱出したら、駅に向かう」

「急いだほうがいいッスね。ここも亡霊や魑魅魍魎だらけッス」

「よし、やるか。私たちが道を切り開く! ついてくるんだ!」

「はっ、はい!」

 サコンの言葉に、小春は頷いた。

 小春は振り返ると、三人に告げた。

「みなさん、もう少しでこのお寺から脱出できます! 頑張りましょう!」

「あ……ああ!」

「もっ、もちろんよ!」

「帰ったら……お腹いっぱい美味しいものが食べたい……!」

 夏代、秋奈、冬華がそれぞれ答えた。

 サコンさんにウコンさん。私たちは大丈夫です。どうか、最後まで私たちに力を貸してください。

 小春はそう祈った。

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