第37話 魔神のガントレット

 あれから間違えの方に進んでいった俺達はモンスターハウスに引っかかりモンスターと戦闘になった。


「はぁっ!」


「ふっ!」


 俺のパンチとエリカの剣撃で最後のモンスターが倒れる。


「お疲れ様でした!」


 最後の敵が倒れるのを確認してからソフィアがこちらに走ってくる。


「やっぱりソフィアが居てくれると戦いやすいなー」


 モンスターとの戦闘はソフィアがいるのと居ないのでは大違いだ。

 的確なタイミングで支援魔法や攻撃魔法を使ってくれるから戦闘が楽に進む。


「そうかしら? 私はこのくらい1人でも余裕だけど」


 エリカがそういうと一瞬空気が凍ったような気がした。

 恐る恐るソフィアの方を見ると笑顔だった。それも今まで見たことがないくらいのとびきりの笑顔だ。


「ふふふ、エリカさんは面白いことを言いますね」


「あら、私は面白いことを言ったつもりはないわ」


 と言い、2人の距離はどんどんと近くなる。


「あ、あの〜モンスターの素材は?」


 俺は恐る恐る2人に声をかける。


「「うるさい!」」


「ひっ」


 2人の怒声に思わず怯んでしまう。


「上等よ、次は私1人で片付けるから見てていいわよ。聖女様?」


「王女様こそ私がお守りしますので引っ込んでいてはいかがですか?」


 2人の頭がごちんと重なる。


 あれこの光景どこかで……


「なら勝負よ、リック! どっちの方が敵を倒しているか審判してちょうだい!」


「そうですね、お願いします!」


 あっ、これ、俺とヒーデリックじゃん。


 あの時は歪みあってたなぁと懐かしくなる。


 なんて思い出に浸っていると2人は飛び出してしまった。


「あっ、素材を!」


 俺は高そうな素材だけ剥ぎ取って2人を追いかけていく。


 2人の背中が見えたと思ったら2人で左に曲がってしまった。


「くそ、早すぎだろ!」


 俺がいくら素材を漁ってたとはいえ2人のスピードは中々だ。どうやら本気で勝負するつもりらしい。

 俺はどうにか2人から離されないように分かれ道を左に曲がる。


「おい! もっとゆっくり……ってもういねぇじゃん」


 仕方ないので2人を追うために走り出すと横から矢が飛んでた。


「はっ!」


 それをすんでのところで回避する。が避け先には棘が設置されていた。

 あとちょっとでも進むと串刺しになるので体を逸らして耐えようとする。


「と、止まれー」


 ブォンという何かが空を切る音が聞こえる。ハンマーだ人1人飛ばせるくらいのでかいハンマーが俺に襲いかかった。


「グヘェ!」


 俺は吹き飛ばされて分かれ道まで戻されてしまう。


「く、くそぅ。なんで俺がこんな目に……」


 ここでへこたれていても仕方ないか。はやく2人を追わないと。


 俺は立ち上がり再度罠がある方へ向かって走り出す。


「はぁ、はぁ。なんとかクリアしたか」


 罠をなんとか掻い潜った俺は2人に追いつこうと必死に走る。


 次の分かれ道にたどり着くが2人の姿はない。


 問題を見てみるが全く分からん。今回もアーレスについての質問なんだが、俺が知っているはずがないだろ。


 どうしたものかと考えていると右側の壁に焦げ跡ででこっちにきなさいと書かれていた。

 こうなることを見越してかエリカが書き残してくれたのだろう。


 俺は右側に進むと今度はモンスターハウスだったようだ。モンスター達の亡骸がそこらかしこに築かれていた。


 モンスターハウスの中を進んでいると光が現れ、モンスターの剥ぎ取りが終わったら来てください。という文字になった。


 今度はソフィアか。


 仕方ないか。と思い素材を集めてからこの場所を後にした。


 これを3回くらい繰り返していると俺にある感情が生まれ始めた。なんで俺はこんな事をさせられているのだろうと。

 いや着いてきてくれた事にはもちろん感謝もしているし、お陰で楽に進めているが、なんか俺置いてけぼりじゃないかと。


 そんな事を考えてくると段々イライラしてきた。


「絶対追いついて説教してやる」


 俺はそう決意する。そしてそこからの行動は早かった。身体強化の魔法を再度かけ直して全速力で走る。


 しばらくするとこれくらい余裕よ! とか私もです! なんで声が聞こえてきた。

 ……この声は2人の声だ。

 俺がさらにスピードを上げると2人の背中が見えてきた。

 あーでもない、こうでもないと喧嘩している2人に大声を放つ。


「お前ら! よくも俺をほっていてくれたな!」


「リック!」


「リックさん!」


 俺を見た2人は少し驚いたような顔をしたが、すぐに遅かったわね。とか言い始めた。


「お前らが速すぎるんだよ!」


 そう言いながら一歩ずつゆっくりと進んでいく。


「お、落ち着いてリック! それ以上は!」


「うるせぇ! 俺がいた事じゃないがお前らはもっとパーティメンバーをだな」


「リックさん落ち着いてください!」


 2人が慌てているがもう遅いぞ。俺は拳骨をするつもり満々だ。女の子だからって手を抜いてもらえると思うなよ。


「俺は落ち着いているぞ、大いに落ち着いている」


 すると地面がカチッと音を立てて下に下がったような気がした。


「ん? ぐへぇぇ!」


 横から高速で石みたいな物が飛んできたのだ。それをモロに喰らってしまった俺は横になって倒れてしまう。


 熱くなって気づかなかったが、ここ罠ゾーンだったのかよ。


「リック……おき……」


「だ………です……」


 2人が何か言っているような気がするがうまく聞き取れない。それと同時に意識が遠のいていく。


「な、なんで、俺が……」


 俺はその言葉を吐いてから意識を手放すのだった。




 体が揺れる。それになんだ妙に懐かしい気分だぞ。


「ん……んん」


 俺は目を開ける。するとそこには金色の世界が広がっていた。


「いや、ほんとになんだ!?」


 びっくりしてのけぞってしまうが体を支えられる。


「良かった! 目を覚ましたんですね!」


 横にはソフィアの姿があった。


 のけぞったことで分かったが俺はルシフェルにおぶられていたようだ。


「お、おう」


 そうだあの時俺に石みたいな物が当たったんだっけ?

 それで意識を無くして……


「そ、その悪かったわね。ついカッときてリックの事を置いて行ってしまったわ」


「私もです。ごめんなさい」


 そう言って2人は頭を下げてくれた。


「いや、俺の方こそめんどうをかけた。すまなかった。ルシフェルもありがとな」


 そう言ってルシフェルに降ろしてもらう。

 


「まあお互いに悪かったってことでチャラにしよう。で、今はどの辺りなんだ?」


 2人が申し訳なさそうな顔をしていたのでそう言って俺はここがどこか質問をした。


「10問目の問題を間違えたところです。そろそろモンスターハウスか罠がある場所に着くと思うんですが……」


 そんなところまで来ていたのか。でも10問目まで来たという事は……


「あら、なにかしら……あれは台座? の上に宝箱?」


 ここの問題は10問目が最後の質問だ。つまりあれが今回俺のサブの目的の品というわけだ。


「もしかしてあれが……」


「だな」


 俺たちは小走りで宝箱に近づく。


「じゃあ開けるぞ?」


 俺がたまたま真ん中にいたので2人に開けていいか聞くと2人は頷いた。


 中を開けると黒を基調として赤色の模様が入ったガントレットが入っていた。それも右手だけ。


「……これが隠しアイテム?」


「……ガントレットのようですが、何故片手だけなんでしょう?」


 このアイテムの名前は魔神のガントレット。魔人じゃなくて魔神な。過去の魔王すらも恐れたとされている存在だ。

 そんな魔神がかつて作ったとされるガントレットの右手が今回探し求めていたアイテムだ。


 このアイテム。全種類集めると文字通り最強になれるのだが今回見つけた右手だけでも十分な程強い。


 というか魔法拳士を目指すなら左手も合わせて必須級のアイテムだ。


 俺の場合魔法拳士を目指しているわけではない。

 だが金がなさすぎて剣を買えていないため、魔法拳士のスタイルになっていた。

 だから丁度いいかと思っていたのだが……


 ぶっちゃけこれをもらうのは気が引ける。だって俺何もしてないもん。

 この層でやった事と言えば後ろから2人を追いかけて後は気絶していただけだぞ。口が裂けてもこれをくださいなんて言えない。


「これは魔神のガントレットってアイテムだな。世界に1つしか存在しないとされているユニークアイテムでもある」


「へー、つけると何か効果があるの?」


「ああ、まずパンチ力の向上だな。次に魔力を流すとそれに応じた効果が得られる。単純な魔力だと威力アップ。火属性だと爆発といった風にな」


 俺の知っている限りのことを2人に話した。


「よく調べてるんですね」


「ま、まあな。で、これどうする?」


 うぅ、ほんとは欲しいけど仕方ない。

 2人が言う通りにしよう。ユニークアイテムであるこのガントレットを売りに出せば1千万ゴールドは堅いだろうしな。


「あんたが取っておけばいいじゃない。欲しいんでしょ?」


 エリカはなんてことないようにそういった。


「いや、欲しいけど、これを売ればとんでもない金額になるんだぞ?」


「別に私お金に困ってないもの」


 うっ、さすが王女様だ。


「私達じゃこれを使いこなせませんしね」


 ソフィアは宝箱からガントレットを取り出して俺に渡してきた。俺が受け取るか迷っていると。


「ただし! ボス戦では活躍してくださいね!」


 そう言われた。

 そこまで言われたら取らないわけにはいかないだろう。


「ありがとな! 絶対活躍するぜ!」


 俺はそう言って右手にガントレットを装着する。


 そして右手を握ったり開いたりする。少し動かしずらいがこの程度なら気になることもないだろう。


「それじゃあ戻りましょっか」


 エリカはそう言ってきた道を引き返していく。


「おう!」


「はい!」


 俺とソフィアはそれを追いかけるのだった。


 

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