第38話 ボス部屋と再会

「とは言ったものの最初の問題まで行くのは骨が折れるわね」


 歩きながらエリカが愚痴をこぼした。


「いやその必要はないぞ。最後の問題を正解の方へ行けば階段があるはずだ」


 確かそうだったはずだ。


「そうなんですか? それは楽でいいですね」


 そう言いながら歩いていると分かれ道の所まで戻ってきたようだ。

 どうやら俺たちは左に曲がってきたらしい。


「じゃあ正解の方へ行くわよ」


 そう言って歩くとすぐに階段があった。


「ほんとにすぐだったわね」


 とエリカは感心しているようだ。


「だろ? これを降りたら三層目に到達だ」


「次は何が待ち受けているんでしょうか?」


「次はボスが待ち受けていると思うぞ。調べた情報では三層目は全てをぶつけろと書いてあったしな」


 三層目はボス部屋だ。


 そしてこのダンジョンのボスが誰かと言うとボスはアーレスだ。

 まあ正確にはアーレスではないのだが、アーレスの思念体というべきなのだろうか。


 2人は俺の言葉を聞いて少し固くなったような気がした。


「まあ安心してくれ、これがあればどうとでもなるさ」


 そう言って2人にガントレットを見せつける。

 実際ゲーム攻撃力という面で言えばバランスブレイカーだったし、これがあればどうにでもなるだろう。


 2人ともこのガントレットの力を解らないから仕方がないが、そう言っても不安そうにしている。


 するとガキィン、キィン。と鉄と鉄がぶつかり合っているような音が聞こえてきた。


「なんの音でしょうか?」


 ソフィアがそういうとドカーンと爆発音も聞こえてきた。これって誰かが戦っているんじゃないか。


「恐らく戦闘中ね」


 エリカが小さくつぶやいた。


「見に行ってみよう」


 俺はそれだけ言って階段を走って降りる。


 これでボスを倒されて槍を手に入れることが出来なかったらヴィナス様になんて言われるか。

 考えただけでも恐ろしい。


 階段を降りると闘技場のような場所に出た。


 どうやら俺達は客席の方へ着いてしまったようだ。舞台の方を見ると槍を持った幽霊のような男と見たことのある女性が戦闘を繰り広げていた。


「…………あいつは!?」


 俺が今日詐欺にあった褐色巨乳の美人さんだ。


「はぁはぁ、早すぎです! あっ!?」


「そうよ! いきなり走らないで! あいつ!?」


 2人も気づいたのか驚いたような声を出している。


「くっ!? 思ってたより強いじゃないかい……ん? アンタ達は!? こんなところまでどうしたんだい!」


 槍で吹き飛ばされたと思ったら俺達の姿に気づいて客席の方まで飛んできた。


 アーレスの思念体らしきものは追ってくる事はなくその場に佇んでいる。


「どうしたんだいじゃねぇぞ! お前のせいでな! 俺はこの2人から冷たい目で見られる事になったんだぞ!」


 と言うとお姉さんは笑いながら。


「そりゃアタイのせいじゃないだろう! アタイに釣られたアンタが悪い!」


 とか抜かしやがった。


 2人からもなんか言ってやれ! と言う意味を込めて2人を見るとお姉さんの言う通りだと言う視線で返ってきた。しかも怒っている。


「ひっ」


「アンタら面白いね! 芸人でも目指してんのかい?」


「んなわけあるか! 学生だよ! 王立学園リーヴァイス1年のリック・ゲインバースだ!」


「制服着てるからすぐに分かったけどね。アタイは王立学園ルヴェニカの三年レオナ。レオナ・ビーストだよろしくな」


 ん? レオナ? レオナ・ビーストってヒロインじゃねぇか!? なんでこんなところに?


 レオナは攻略可能なヒロインの1人である。が、私服だったため全く気づかなかった。

 ルヴェニカ学園はこの国の隣の国メンラーク王国の王立学園だ。

 

 レオナと主人公が初めて出会うのは生徒会長と同じ選抜戦の時だ。

 そしてレオナと生徒会長はライバルという設定もある。


「私はエリカ・シャリアーテよ」


 とだけエリカが言うとレオナはいきなりエリカを抱きしめた。


「お前がエリカか! リディアが可愛い妹だって言ってたから会って見たかったんだよなー! 確かにちっこくてかわいいな!」


 と言ってエリカを抱きしめている。別にエリカが小さい訳ではないんだがレオナがデカすぎる。そしてエリカ羨ましいぞそこを変われ!


「むっ! うっ!」


 エリカは今おっぱいで窒息しそうになっている。エリカも力ずくで引き離そうとしているがレオナの力に抑えつけられている。


「それ以上はやめろ、エリカが死ぬ。精神的にも身体的にも」


 おっぱいで窒息なんてエリカは耐えられないだろう。前にそれが原因で暴走してたし。


「ああ、悪い悪い」


 と言って手を離すとエリカは勢い余って転がってしまった。

 手を貸そうとするとおっぱい殺す。おっぱい殺す。と小さく呟いていたので怖くなってやめた。


「私も同じく1年のソフィア・フィールです」


 ソフィアは少し敵意のこもった目でレオナを見ている。


「へぇ、アンタが噂の聖女様か……アンタら面白いメンバーでパーティ組んでるね」


 そう言ってレオナはこちらを睨んだ。一瞬ゾクっとした。

 まるで狩をする獣の目だ。


「そりゃどうも。そういうアンタはわざわざ国を跨いでここで何をしているんだ?」


 まあこいつがレオナなら目的は多分……


「簡単さ! 噂で神様と戦えるって聞いたからね!」


 と言ってレオナはアーレスを見た。

 やっぱりか、バトルジャンキーめ。


「神様と……?」


 ソフィアは首を傾げている意味がわからないのだろう。


「そう、神様さ! あそこに立っているのはアーレス様さ。力や魔力、精神力なんかは抜けているが技だけは本物だよ。まさしく神業ってやつさね」


 そう言ってケラケラと笑い始めた。


「アタイの目的は話した。リック達は何しにきたんだい?」


「俺はアーレス様の槍を回収しにきた。戦うのが好きならアイツ倒してくれね? 俺らは槍の回収がしたいだけだし」


 と言うと少し間を開けた後レオナは爆笑し始めた。


「何がおかしいんですか?」


 むすっとしたソフィアがそう尋ねた。


「はははっ! だってリック。アンタあいつと戦いたいって顔に書いてあるよ」


 と言われた。

 そんな事を顔に書いてあるつもりはないのだが、バレてしまったらしい。実は俺はガントレットを使ってみたくてうずうずしている。


 それも相手は神だ。この魔神のガントレットのデビュー戦にこれほど適した相手もいないだろう。


「はぁ……なんで分かるんだよ」


「そんな顔をしてたら誰でも分かるさね! ホントはアタイが倒すつもりだったけど、譲ってあげるさ! 戦いな!」


 そう言って客席に腰を下ろして観戦モードになっている。


「はぁ……と言う訳だ! すまん! 俺1人でやらせてくれ!」


 俺は2人に手を合わせてお願いする。2人がいた方が戦いやすいだろうが、1人で戦ってみたい。


「本気なの?」


 エリカが少し心配したような表情で言ってくる。


「もちろんだ」


「勝てるんですか?」


 ソフィアは言っても聞かないんだろうなぁみたいな呆れた表情をしている。


「勝ってみせる」


「「はぁ……」」


 と2人がため息をついた。


「「なら、負けるな!」」


 そう言って肩を叩かれた。

 てっきりダメって言われると思ったが意外だ。


「おう!」


 俺が闘技場に飛び降りようとするとレオナから声をかけられた。


「あんな美少女2人から応援してもらえるなんてアンタも罪作りな男だねぇ」


「ならアンタも応援してくれ、そこに美女も加わったら負ける気がしねぇしな」


 俺が軽口を叩き返すと、


「ハハハハッ! なら応援してやる! ただしアタイを失望させるなよ!」


 と笑いながらに言った。しかも、言うだけ言って客席の方に戻っていたし。何がしたかったんだ?



「まあいい、いくか」


 俺は闘技場に向けて飛び降りるのだった。

 

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