第36話 知識の試練

「次の階層はどんな仕掛けがあるんですか?」


 階段を降りながらソフィアが質問してきた。


「さっきが力を図るものだっただろ? なら次はなんだと思う?」


「知識かしら?」


「そういうことだ。俺の調べた資料では知識を見せよとなっていた」


 そしてここが今回俺がきたもう一つの目的隠されたユニークアイテムがあるのは階層でもある。のだが、俺は今困っている。


 この階層は分かれ道の前にあるクイズの答えによって右が左か選んで正解だとそのまま次へ、間違いだとモンスターハウスや罠がある道に行かされるというのを繰り返して、クリアしていく特殊な階層なのだが、俺が求めているアイテムはわざと全問間違えていかないと入手できない。


 2人の方をチラリと見る。流石にわざと間違えて巻き添えにはできないよなぁ……

 かと言ってアイテムを取らないという選択肢もない。どうしたものか……


「知識ですか……リックさん大丈夫ですか?」


 とソフィアが失礼な事を言ってきた。


「失礼な事を言うな! そんな事を言っているって事はソフィアは自信あるんだろうなぁ?」


「私、入学試験の結果は学年で2位ですよ」


 なっ、そんなに頭よかったのか。ソフィアがテストの点数がよかったというのはなんとなく覚えてはいたが…… 


「っ! じゃあエリカは!」


 次席に喧嘩売るのは流石に分が悪い。


「私は首席よ」


 ふふんといいながらエリカはドヤ顔で答えた。しかもこの展開になった時から会話を振られるのを待っていたんじゃないかと思うくらいの食いつきの良さだ。


「な、なんだと……」


 か、勝てるわけがない。主席と次席が一緒にいるなんて悪夢だ。


「で、リックさんは何番だったんですか?」


「さ、さぁ……」


 俺は顔を逸らした。

 別に順位が悪いから顔を逸らしたわけじゃない。入試の時はこの体リックのものだった時の話だ。ここにいる全員誰も分からないと思うが、なんとなく気まずくなった。


「あ〜、さては順位が悪かったんですね」


 とニヤニヤと笑みを浮かべるソフィア。


「そ、そんな事ないぞ?」


 実際リックが何位だったかなど知らないが……


「バレる嘘はやめときなさい。アンタ最下位でしょ」


 とエリカが言った。


「は? 今なんて?」


「だから最下位って言ったのよ! 私もお姉様に結果を教えてもらった時には最下位の人が知り合いだったなんてビックリしたわよ!」


 何やってんだ! リックゲインバース! 


 俺は自分で自分を殴りたい。最下位はないだろ。じゃあここにいるのは学力で言うとトップ1、2とワースト1って事かよ!


「ふっ、ぷぷぷ。これからですよ、元気出しましょう!」


 と吹き出しそうになりながらと言うよりも吹き出しながらソフィアが俺の肩に手を置き励ました。

 いや、励ましたと言うよりも煽ったの間違いだろう。

 どうしよう、ソフィアをこんなに殴りたくなったのは首輪をつけられた時以来だ。


「そうね。そして次はちゃんと勉強するべきね」


 とエリカからも厳しいお言葉をいただいた。


 そんな事を言っていると階段が終わりすぐに分かれ道が出てきた。


 その真ん中には看板があった。なんて書いてあったかと言うと戦神アーレスは戦いにおいて負けたことはない。

 ⇦はい、いいえ⇨

 と書かれてあった。


「随分質問内容が偏っているようだけどこれがこの階層のギミックのようね」


「みたいだな、誰かこの質問の答えわかるか?」


 因みに俺は分からん。


「アーレス様の最期は討死だったので恐らくいいえかと」


「私もその話を聞いた事あるわ」


 という事は答えはいいえか。


 俺にとっての問題はこれからだ。なんと言ってはいの方に進めばいいか……


「では答えはいいえの右側ですね」


 と2人は歩き始めるが俺は動けない。


「どうしたの? はやく行くわよ」


 エリカが心配そうな顔で声をかけてきた。


「ん? んー」


 仕方ない、本当のことを話して2人には先に行ってもらおう。


「いや、実はだな。このダンジョンには隠しアイテムがあるみたいなんだよ」


「隠しアイテム?」


 エリカが眉を顰めた。


「そう、それもアーレスの槍に劣らない物があるらしい。それでなんだが、入手方法が少し面倒臭くてな」


「まさか」


 ここまで言ってどんな入手条件か2人とも気づいたようだ。


「そのまさかだ。ここの質問に全部間違えること、だ」


「……それを入手したいんですか?」


「ああ」


 俺は2人の顔を見て頷いた。


「はぁ、仕方ないわね。なら行くわよ」


 そう言ってエリカははいのほうへと歩みを進めた。


「そうですね」


 ソフィアもそれだけ言ってはいの方へと行く。


「いや、待て! 罠とかモンスターハウスがあるんだぞ! 多分」


 2人を止めようとする。


「モンスターがいるならちょうどいいじゃない。素材を売れば誰かさんのせいでマイナスになっているお金もプラスにできるわ」


 エリカに痛いところをつかれる。


「それに私達はパーティですよ? 1人だけ勝手な行動取らないでください」


 ソフィアにも正論を言われる。


「いや、だが……俺のわがままだし」


「ダンジョンまでついて来たいと言ったのは私達の我儘よ。それに……学園で1番下の頭の持ち主が問題をわざと間違えるなんてことできるのかしら?」


 最後はにやけヅラでそう言われた。……それを言われては反論のしようもない。


「俺の我儘に付き合ってもらう事になるがよろしく頼む」


 そう言って俺は頭を下げる。


「よろしい」


「最初からそうしとけばいいのよ」


 と言って2人は歩き出してしまった。俺は感謝しながらその背中を追うのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る