第5話 交流試合

「新しいクラスに初めて入る時のこの感覚、何年経っても慣れないなぁ」


 俺は今紙に書いてあった教室の前に来ている。

 部屋の横にあるプレートには1-Dと書かれてあった。

 クラス分けはAクラスとBクラスとCクラスが貴族でDクラスが平民だ。

 何故平民の方が少ないのか? 理由は簡単だ。このリヴァイース学園に入学する為の最低条件が魔力が存在する事だからだ。


 かつてこの世界を救った英雄の血筋をひいている貴族に魔力があるのは当たり前の話だが、平民には魔力を持つ者は少ない、それが圧倒的に平民が少ない理由だ。


「あ、あの……」


「ん?」


 声をかけられた方向を向くと、眼鏡をかけた黒髪の地味目な少女がいた。


「は、入りたいんですけど……」


 その少女は指を教室の扉へ向けてさしている。

 俺が邪魔だったのか。


「あぁ、悪い悪い! 俺もここのクラスなんだ、俺はリック・ゲインバースよろしくな!」


 俺は右手を差し出す。


 普段なら絶対にこんな陽キャのような挨拶なんてしないがリックならこうした筈だ。


「ぁ、あの。よ、よろしくお願います! わ、私はリン・ノースターです!」


 リンと名乗った少女はペコリとお辞儀をしてから握手をしてくれた。


「よし! じゃあ一緒に入るか!」


「は、はい!」


 扉を開けて部屋に入るとほとんどの生徒がもう席に座っていた。そして教壇にはやる気のなさそうなおっさんが立っていた。


「お前らはリック・ゲインバースとリン・ノースターで間違いないな?」


「「はい!」」


 俺とリンの声が被る。


「じゃあ適当な席につけ」


 先生の指示に従い後ろの空いてあった席に座る。


「これでクラスの全員が揃ったわけだが、まずはこのバッチを配る」


 そう言って先生は全員に青色のバッチを配った。


「そのバッチを学園にいる間は付けていろ」


「何故これをつけるのですか?」


 真面目そうな生徒が手を上げて先生に質問をした。


「……あぁ、別に深い意味はないがこの学園では貴族は赤色のバッチ、平民は青色のバッチを付けることになっている」


 説明を終わると先生はニヤニヤとしていた。


 ……なるほどそういう事か、この先生は貴族で平民の担任になったからこんなにやる気がないのか。


「それは平民差別ではないのですか! この学園では差別は禁止のはずです!」


 さっきのその言葉に生徒が噛み付いた。きっとこいつも俺と同じ答えに至ったのだろう。


「だから言っているだろう? 深い意味はないと」


「うっ」


 そう言われては言い返す事は難しいだろう。


「他はないか? ではまず自己紹介からだ。俺はリンガー・グインだ、お前達は適当に後でやっとけよ」


 いくらなんでも適当すぎるだろ、こんなのが担任で大丈夫なのか?

  ……大丈夫なのだろう。この学園は表向きは貴族と平民の平等を謳っているが、貴族は平民を下に見ている。


 この学園で本当に平等を目指しているのは生徒会長のリディアくらいだろう。


「それじゃあ解散………そうだ、忘れてた。明日ある交流試合の代表を決めないとな」


 リンガー先生は教室から出ようとしてなにかを思い出したのか教壇へと戻った。


「交流試合ですか?」


 真面目そうな生徒が聞き返した。


「ああ、お前達は知らないよな。一年生のクラスから1クラス1人選抜してのトーナメント形式の決闘の事だ。

 ……どうせお前らは勝てないんだから誰でもいいから1人決めてくれ」


 そんなイベントあったな、決闘というのは魔法や剣を使って勝負だ。基本的にルールはなくどちらかが降参するか、動けなくなったら負けだ。


 まあ俺には関係ないね、今回は戦うつもりはない。今の俺が戦っても勝てないだろう。平民にも魔力はあると言ったが貴族に比べれば微々たる者だ。


 悔しいが、先生の言う通り今のこのクラスに勝てる者はいないだろう。

 そもそも交流試合は将来有望な貴族達の実力のお披露目会と同時に、平民達に立場を分からせる為のイベントだ。


「決闘!?」


 クラスのみんながザワザワと騒ぎ出す。みんな不安そうだ。


「はぁ、早く決めてくれ。決められないならこっちで決めるぞ」


「まっ、待ってください!」


「待たん、じゃあこの中で1番魔力のあるノースターお前がやれ」


 ノースターってリンか!? 人は見かけによらないんだな。まさかリンがこのクラスで1番魔力が高いとは……


「わ、私ですか!? む、無理です……」


 リンが指名されるとほとんどの生徒がほっと息を撫で下ろした。自分が選ばれなくて安心したのだろう。


「無理でもやれ。意見はないか?」


 さっきまで質問しまくっていた生徒も無言になってしまった。

 リンの方を見ると涙目になりながら周りを見渡していた。誰かに助けてもらいのだろう。


「……ないな? ではかい」


「待ってくれ! リンガー先生。……交流試合は俺が出るぜ!」


 俺は勢いよく立ち上がりそう宣言した。ここで戦うつもりはなかったが、流石にあの状態のリンに戦わすのは胸が痛い。


「り、リックさん」


 小さな声で呟いている。リンの方へ笑顔を向けてから先生を見る。


「分かった、なら代表はゲインバース。お前だ、では解散」


 そう言って先生は教室を出た。


 …………こうなってしまったものは仕方ない、やれる事をやってやるだけだ。

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