第10話 コメント

私は悪夢の中にいた。


考えれば考えるほど、私のなかで第4の仮説が正しいと思えてきた。


思えば「京都さん」は初めに私を告発してからその後一度もコメントせずに沈黙を保っている。


そして沈黙を保っている人物は他にもいる。

「東京都庁さん」だ。


奈良。

神奈川。


奈良。

神「奈」川。


京都。

東京都庁。


京都。

東「京都」庁。


それはただの言葉遊び。

根拠はそれだけ。


始めはそう考えた私だったが、小さな疑惑はジワジワと私の脳内を侵略し、今の私の思考を支配している。


私は東京都庁さんのページに飛ぶ。

カクプラはその仕様上、その人にコンタクトを取りたければ、その人の作品内にコメントしなくてはならない。


どうする・・・?


東京都庁さんの作品は数多くある。どこにコメントを投稿する?


そうだ。東京都庁さんはいま連載作品を抱えていたはずだ。

毎日同じ時間に予約投稿している。


そこにコメントすれば、早く東京都庁さんも気が付いてくれるはずだ。


タイミング良く・・・というべきか、彼の作品は20分前に更新されていた。


そこには早くも50件以上の応援コメントや応援スタンプが押されていた。


その中に私は、

「東『京都』庁さん。アナタが『京都』さんですね?」とコメントを書いた。


一度書き出したら止まらなかった。


「京都さんの書き込みがあった後、東京都庁さんからのコメントも無くなりました」


「教えて下さい!私は東京都庁さんの作品は全て読んでいます!どの作品のどの部分を、盗作だとご指摘されたのですか!?」


「もし、該当するものがありましたら、今すぐ削除いたします!どうか・・・どうか私をお導き下さい・・・」


私は立て続けにコメントを打ち込む。

5分後・・・。

10分後・・・。

30分後・・・。


待っても返信は無かった。


無かったのは東京都庁さんの返信だけでは無い。


私の投稿コメントを最後に、彼の更新作品内での他のユーザーの応援スタンプや応援コメントもピタリと無くなっていた。


私は少し不自然に思う。


なんだ?

この感覚は?


少し考えてから私はハッとした。

トップランカーの東京都庁さんの・・・今最も注目されている更新作品のページで・・・私は名指しである種の『告発』をしてしまったのだ。


私は自分のページに戻る。


「コメントで私の作品が盗作だと言われた件についてアドバイスをお願いします」。


私がカクプラ内に立ち上げたブログ・・・。


そこにはまだ新しい書き込みこそ無かったものの・・・。


閲覧数が異常なほど伸びているのが分かった。


何てことだ。

『誹謗中傷』、『炎上商法』、『自爆テロ』、『締め出し』。


私の頭の中で断片的な単語がいくつも流れては消えていく。


「新着通知があります」


もしかしたら、東京都庁さんのファンの人から非難のメッセージかもしれない。


私はベルの形をしたマークにある新着通知を恐る恐る開いてみた。


「『東京都庁』さんがあなたの作品に誤字報告をしました」


誤字報告?


私は開いてみた。


「お久しぶりです。神奈川さん。センシティブで個人的なお話でしたら、第3者に見られないよう、この様な方法もあるんですよ。失礼ながら神奈川さんの盗作疑惑についてはかなり早い段階から着目しておりました」


そうか!

私は愚かにも、東京都庁さんの作品内に個人的な用件をコメントしてしまったが、誤字報告この様なやり方なら誰にも見られないはずだ。


私は東京都庁さんの文章の続きを読む。


「初めに断っておきます。私は京都という人物ではありません」


東京都庁さんがまずはハッキリと自分は京都では無いと断言する。


「 しかし判断するのはアナタです。わたしが『京都』なる人物で無いとして、神奈川さんは・・・一体どの様な形でこの問題を終わらせたいのでしょうか?」


そこで文章は終わっている。


どの様な形で問題を終わらせる・・・?


東京都庁さんが言わんとすることが、いまいち分からなかったが、私は彼の誤字報告欄にコメントを返した。


「東京都庁さん。ご連絡ありがとうございます!私はまず東京都庁さんが京都さんで無いなら、私のブログ『コメントで私の作品が盗作だと言われた件についてアドバイスをお願いします』でそうハッキリとコメントを頂きたいのです。それから出来れば私の作品が盗作で無い事を東京都庁さんのお名前でコメントを頂きたいのです」


しばらくして、彼から誤字報告にコメントが入った。


「ブログで私が京都なる人物で無い事を証言するのは簡単です。しかし神奈川さんの作品が盗作で無いと証言するのは不可能です」


「どうしてですか?」


「それを私に説明させるのですか。それは・・・いや、あえてノーコメントとさせて頂きましょう。この問題はむしろ私の方が抱えている問題なのですから」


どう言う事だ?


「私から言える事は『東京都庁』は『京都』では無い事、もしそれを疑うなら、全く同じ論法で疑うべき人間は1。最後に・・・あえてアドバイスを差し上げるなら『気にしない』ことでしょうか?」


東京都庁さんは続ける。


「ここから先は取引です、神奈川さん。まずはアナタが私の作品内に投稿したコメントを削除して頂けますでしょうか?そうして頂ければ、私の方でもアナタのブログで、東京都庁は京都では無いとコメントを差し上げます」


「分かりました」


私は急いで彼の作品内に書いてしまった告発コメントを削除した。


数分して、私のブログに、「東京都庁です。なにやら誤解があった様ですが、私は『京都』と言う人物ではありません」とコメントがあった。


私は東京都庁さんに感謝の挨拶を誤字報告欄に書き込もうとした。


しかし、先ほどまで出来たはずの誤字報告欄をクリックしても開けなくなっていた。


どうして!?


先ほどまでは書き込めたはずじゃないか!


色々と試行錯誤してみたが、出来ない。


東京都庁さんは何事も無かったかの様に、最新作の応援コメントやスタンプに返信している。

私の事など最早もはや眼中に無いかのように・・・。


ふと気になって、東京都庁さんの作品のページの一番下までスクロールしてみる。


誤字報告:フォロワー同士のみ受け付けています。


そう書かれていた。

私は東京都庁さんの事をフォローしていた、東京都庁さんも私の事をフォロー返しをしてくれていた。


まさか・・・と思い、私は東京都庁さんのフォロー一覧を確認した。

何度も何度も確認した。

無い・・・無い・・・。

そこには私の名前が無い。


東京都庁さんは私のフォローを外したのだ。


数分後・・・。


「神奈川さん、アナタ東京都庁先生に何を変な因縁を付けているんですか?荒らし行為ですよ!」


「荒らし行為に見せかけて自作品に誘導しているんじゃないですか?そう言うやり方感心できません」


「盗作ですか?荒らし行為を行う人間にはお似合いの話ですね!」


・・・私のブログには、東京都庁さんのファンが沢山押し寄せ、罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びせられたのだった。

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