第10話 まさかの兄貴

 「ところで兄貴は、ここの町の人かにゃん?」

 「そうだにゃん」

 にゃんにゃん語尾が癖になっていると、イヴリース様が「戯れはそのくらいにしておけ」にゃんにゃん語を止めさせた。


 後ろの子分は最初とは違う意味での熱視線を送ってきて、明らかに「自分も猫に触りたい!兄貴ばっかずるい!!」嫉妬の念を送って兄貴をジト目で見つめている。あれま、師弟?関係にヒビを入れてしまったかしら。

 

 「慌てなくても皆もふもふするよ!!」

 ゴロゴロ攻撃二週目。今度は肉球でポンポンを多めに。

 

 すっかり骨抜きにされた兄貴と子分はふにゃふにゃと肉球ともふもふの余韻に浸って使い物にならない(笑)。こんな状態で悪ぶられても、最早説得力がないというか。


 「悪いことするよりも、良いことしない?」

 こてんと首を傾げて四人の顔をそれぞれ見つめる。

 「と言うと?」

 「一攫千金と、とある打ち捨てられた土地を再興しようとして人足を集めているのだ。その土地では農作か、工芸など何が産業になるか分からないが、それはこれから考えるところ。お前達のように体力が有り余って心臓に毛が生えていて脅しにも屈しない無頼漢は是非欲しいところだ。来い」

 今まで黙りこくっていたイヴリース様が右手を兄貴ら四人に差しだす。それも少ししゃがれたバリトンの声で甘く語りかたりけるものだから、子分三人の表情はうっとりと蕩けている。あれれ、何だか背景に薔薇が咲き誇っている幻覚が見えるんだけど。

 兄貴は、というと、必死に首を振り唇を噛み締めて色気の嵐に耐えている。イヴリース様の色気はむんむんで、私にはあまり効いていないのに、男四人には覿面らしい。なんだろう、さっきとメロメロに張り合っているのかしら、ちょっとむかつく。


 「立っているの疲れた」

 ペタリと座り込む。元々猫は四足歩行なのに、前世が四足歩行だから無理して二足にしていたけど、かかとを上げ続けるのはくたびれる。

 イヴリース様が、

 「そういえばこの町で長靴職人を探す話だったな。おい、お前らは知らないか?」

 四人は顔を見合わせ、子分三人が兄貴を一斉に見つめた。見つめられた兄貴は居心地悪そうに身じろぎをし、気まずそうに視線を地面に移す。


 「もしかして、兄貴は長靴職人なの?」


 うるうるお目目で兄貴の顔を覗き込み、両手の肉球で顔を挟む。


「ぐっぅうぅ」


 言わぬつもりか。ならばトドメの鼻に鼻チュー。

 耳元に顔を寄せて

 「兄貴の長靴があれば足が痛くないにゃー、欲しいにゃぁ。」

 ゴロゴロゴロゴロゴロ。


 「作りゅー!!」

 両手で抱き締められた。ただし兄貴の筋肉だらけの腕じゃ私は潰されてしまうので、壊れ物を扱うようにふんわりと包んでくれる。


 はっと兄貴が顔を上げ子分三人とイヴリース様の顔を見つめると、ビックリしているのはイヴリース様だけで、子分三人は特に驚いていない。


 「兄貴、もしかして子分さんら兄貴の長靴作り知っているんじゃない?多分この様子だと隠しても意味がないんじゃないの?」

 猫の可愛いお手々を子分らに向けると、今度は三人が一斉にてんでばらばらに顔を背ける。うん、兄貴は勿論、子分らも全然嘘吐けないね。カモるつもりがいつもカモられているんじゃない?あんたら悪人向いてないって!!一緒にジェイド様の屋敷がある土地に付いてきて貰って開墾しよう?その方があんた達のためにもなるって!!


 そうイヴリース様と主張すると、兄貴が趣味の手芸を生かして、私の猫足に負担のかからにかかとが高い長靴を作ってくれることになった。

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