第14話 内部抗争の噂

「ところで、絶好のタイミングで現れてくれたな? ああなることは分かってたのか?」


 囲まれたときに丁度良く二人は現れた。

 自分の噂をおそらく聞いていたに違いない。


「あ、あぁ……まあね。すごい才能を持つ転校生の噂は、校内でも持ちきりになっていたよ。夏也という名前を聞いて、まさかとは思っていたけれど」


「で、網を敷いて待っていたというわけか。フッ……用意周到だな?」


「いやぁまさかキミこそ、あんな無茶な挑発をするとは思わなかったよ。本当はあそこまで乱暴な展開になる前に止める気だったんだけど」


「しばらく見ないうちに、随分とつまらん連中が幅を利かせてるみたいだな、この学園は。……いや、今やMASK全体がそうか」


 ああいった権力を笠にした真似事を、高校生ですらやっているのだ。

 街全体の社会人を考えると、ろくでもない事情になっているのは火を見るより明らかである。


「面目ない。返す言葉がないよ」


「ねえ孝太郎、あのことを夏也になら話しても良いんじゃない?」


「あのこと?」


 シズ姉ぇに何事かを提案された孝太郎は、しばらくあごに手を当てて思案し、やがて頷いて見せた。


「そうだな……うん。キミになら話しても良いだろう。実はこんなにも街全体の風紀が乱れているのは、MASK内部で大規模な後継者争いが生まれているせいなんだ」


 ――学校の風紀が悪いのは、町を支配する会社が揉め事に巻き込まれているから。

 いきなりそんな突飛な話題を持ち出され、俺は目を丸くする。


「後継者? お前達の爺さん、白面しづらいわお会長はどうした?」


「お爺様は一昨年に亡くなったよ。空木博士がいなくなってから、随分と気を揉み……寝たきりの生活が続いたからね。無二の友人だったとずっと嘆かれていた」


「死んッ……い、いや、亡くなった、だと!? 白面会長……あの老人が……」


 MASKの頂点に立つ、死の商人の王。

 あの戦争経済を貪る怪物が……死んだ?

 しかも父さんの身を案じていただと?

 馬鹿な。では、俺の両親の仇はいったいだれなんだ!?


「俺は……父さんを左遷したのは、あの白面会長だと思っていた」


「とんでもない! お爺様はキミのことも実の孫のように可愛がっていたんだ! 見捨てるなんて有り得ないよ!」


(ならばなぜだ! なぜ俺はあんな目に……っ)


「空木博士が飛ばされてからすぐだったんだ。MASK内部で大がかりな構造改革が行われたのは」


「……それが後継者争い、か?」


「うん。世襲制ではなく、営業成績を最も伸ばした者が次の社長に就任すべきだって」


「ビジネスとしては当然だ。が、お前の親父さんは納得してるのか? 会長の息子だろう」


「父は、お爺様と違って平凡な人だったからね……。社員だったエリート外国人にはだいぶ出し抜かれたよ。おかげで良い反面教師にはなったけど」


 軍需産業は日本じゃまだノウハウが浅い。

 経験豊富な海外組に負けるのは当然ということか。

 そういったところが、住人の外国人恐怖症である要因に拍車を掛けているのかも知れない。


「今までのMASKは、キミのお父さん……空木博士によるワンマン経営だったってことだね。実質の指導者は、おじさんだったってことさ」


「おじ様、本当に偉大な方だったのね」


「――……」


 だが父さんはMASKを裏切り、会社を告発しようとした。

 ありとあらゆるものに変化する、あの悪魔の仮面兵器……〈ゼノフェイス〉を作り上げてしまったがゆえに。


 おそらくは、自分が制作した仮面の力がおそろしくなったのだろう。

 あれは世に解き放たれてはいけないものだと、父の最後の倫理観りんりかん警鐘けいしょうを鳴らしていたに違いない。


「つまり業績を伸ばした者がMASKを継ぐと言うことは、新しい兵器を作って売り、それを部署ごとに競い合っているわけだな? 経営方針としては正しい在り方だ」


「話が早くて助かるよ。僕には対抗派閥がどんな武器を作っているのかさっぱり分からないんだ。パワードスーツ、二足歩行型戦車、優秀な兵士のクローン部隊……候補が多すぎる」


(なるほど、な。……どうやらここで〈悪魔〉に繋がるらしい)


 本家である孝太郎と対立する別の派閥は、謎の生態兵器〈悪魔〉を製造し、それを新兵器として各国に売りつけ、業績を伸ばそうとしているに違いない。


「内情は分かった。それなら、気になる噂を俺も小耳に挟んだぞ? その新兵器とやらの稼働実験な、この学園内部で行われているそうだ」


「えっ……そ、それは本当かい!? き、キミはその情報をいったいどこから!?」


「ある確かな筋の情報だが、詳細は言えない。だが孝太郎、お前は俺を信じないのか? それとも信じるのか? どっちだ?」


「……ッ! そ、それはもちろん信じるよ。幼なじみであるキミのことを、僕が信じないはずないじゃないか」


「――そうだな。俺達は友達、だからな?」


 言葉の語感を強調し、意味深に呟いてみせる。


「あ、ああ! こうしちゃいられない。早速色々と調べてみるよ。シズ姉ぇ! すまないけどきょうのところは夏也のこと、任せたからね!」


 慌ただしく電話で何事かを連絡すると、孝太郎は俺達を残して走り去っていってしまう。

 ぽつんと取り残されたシズ姉ぇは、会社経営に関しては門外漢なのだろう。


「あ、あはは。私、会社のこととかよく分からなくて、何が何やら……。とりあえず、さ。一緒に帰ろっか?」

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