第56話 ポーラスター 終着


 黒崎はもう自分が長くないことを分かっていた。

 退助とくらきを助けるため、わざとジャバラを引きつけた。空からはセイレイ、地上からはシュンビンに追われて進退窮まる。敵の放つ何発ものアナイアレイターを喰らい、ポーラスターはたちまち粉砕された。ただし、運よく自分は助かり、横転して道路から崖へ落ちるトレーラーの運転席から、何とか脱出できた。

 斜面を駆け上がり、森に逃げ込もうとした矢先、はぐれた多脚戦車シチュウのビームを腹に喰らって倒れた。

 意識は失わなかったが、もう動けなかった。下腹を貫いたビームは黒崎の腰骨と腸に穴を穿ち、その傷を見た黒崎は死を確信した。

 ビームで灼けた傷口は出血がない。だが、腸と腰骨がない黒崎はもう助からない。下半身はすでに動かず、なんの感覚もない。もしかしたら腰も両脚もすでに無くなってしまっているかも知れないが、怖くて確認できない。

 すでに逃げることも叶わなかったが、動けない黒崎をジャバラは相手にせず、その場から立ち去った。

 黒崎はほっとし、しずかに死を待つことにした。


 ジャケットの内ポケットからタバコを取り出し、ライターで火をつける。妙に手が震えて手間取ったが、それでもフィルターを口に咥えて大きく吸い込んだ。

「うんめえ」

 こんなに美味いタバコは初めてだ。

 斜面に横たわり、海の向こうの山を眺める。空に横たわるジッカイの下で、なにかの光が閃いた。

 ビルのように大きな何かが、立ち上がる。紫色の金属の光沢。腕があり、脚があり、尻尾がある。身長二百メートルくらいか? 巨大な二足歩行の恐竜は、いきなり身をのけぞらせ咆哮した。天と地を震わせる叫びはここまで届く。

 あれか。あれが、くらきのいっていたアクギャクホルムか。とうとうやりやがったか、あいつら。

 金属の恐竜が、ビームを放つ。周囲で爆炎が噴き上がる。しかしアクギャクホルムは無事。そして、口から怒りの気炎とも思える血の色のビームを放ち、それが山の上に浮遊する大陸の如きジッカイを粉砕する。

 ふっと日が翳った。雲が出たかと空に目を向けると、太陽が欠けている。蝕だ。惑星ラクシュミーが太陽と重なり始めている。

 暗くなり始めた空を見上げ、黒崎はタバコをもうひと口、大きく吸い込む。そして肺を満たした紫煙を、ゆっくりと吐き出す。


 うまい、今日のタバコは本当にうまい。

 そして、にやりと笑ってひとことつぶやいた。


「勝ったな」


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