第29話 孔冥と秀吉 微震


「孔冥、助かった。津波の予想、完璧だったよ。空自の哨戒機が確認した」

 秀吉はスマートフォンを切りながら、パソコンに向かう天才科学者を見下ろす。

「計算したのは、僕じゃない。埼玉の理研の連中だ。といっても、その可能性について問い合わせたのは僕だけどね」

 口調は自慢げだが、表情は硬い。

「避難は間に合いそうか?」

「そこは自衛隊にがんばってもらうしかない」

「しかし、人工衛星が使えないと厳しいな。通信は無線とインターネットに頼るしかない。インターネットに関しては、こちらに優先権をつねに与えるよう進言しておいてくれ。あと、あちこちに展開したジッカイの配置は分かったのか」

「まだ全部は──」

「拙速で構わない。正確な情報より、素早い情報が欲しい。多少の勘違いは構わん。相手は直径二キロ。すこし位置がズレていても困らんし、移動もする」

「徹底させよう」

「あと、これはこちらからの未確認情報だが、気象庁の地震検知器が微震をとらえているとのことだ。特別対策室権限でデータをもらったが、あそこは細かいことにうるさいな。データをすべての研究機関に開示するよう手を回してくれ」

「気象庁か」秀吉は髪をかき上げる。「あっちには知り合いがいないからな。上から手を回してみる。それより、その微震とは? また地震が来るのか?」

「一定の深度で地殻が揺れているらしい。予断は禁物だが、海に潜ったクボウが原因ではないかと僕は思っているのだ」

「つまり、クボウが海底でなにかしていると?」

「地殻振動だからな。穴を掘っているとしか考えられないのだが」

「地下資源の掘削が目的か?」

「それは僕にも分からない。だが、ジャバラの目的が地下資源なら、なぜ地上にも展開しているんだ。いずれにしろ、すべての謎がジャバラの目的という一点に収束していくな」

 孔冥は最初からジャバラの目的を気にしていた。

 そしていま、この段階であっても、やはりジャバラの目的を知ることは、その対策を立てるために必須であることが窺える。

 秀吉はここに来て初めて、この天才科学者の思考が、たえず正鵠を射ていたことに舌を巻いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る