第27話 孔冥と秀吉 クボウ墜落


「クボウが墜落なんかするものか」

 不機嫌に口をとがらせた孔冥は、かちかちとマウスでニュース・サイトをつぎつぎとチェックしている。

「だいたい、クボウよりはるかに大きいテンクウは全部、きれいに洋上に浮いているじゃないか。クボウが墜落したのなら、それより大きいテンクウがなぜ安定して飛翔していられる」

「まあ、そうだが……」事実は事実であるといいかけた秀吉の言葉をさえぎって孔冥が口角泡を飛ばす。

「あれは墜落したんじゃない。着陸したんだ。事実、ほかのクボウは洋上に着水してのち、潜水したという報告がいくつも上がっている。事故で墜落したんじゃない。故意に街の上に着陸してきたんだ。強制着陸だ」

「だが、なんのためだ」秀吉は反論する。どうも孔冥の怒りの矛先が見えない。この天才科学者はいったいこの世界になにを要求しているのだろうか。「ジャバラは地球人からの通信にまったく反応しない。あれはジャバラの侵略行為と受け取って構わないのだろうか」

「そこだ」孔冥は人差し指をピンと立てた。「なんのために?だよ。あいつらの目的はいったい何なのか。移住? 侵略? 資源採取? そこが皆目見当もつかない。海に潜ったクボウは海中でなにをしているんだ? それを探査することはできないのか?」

「海底三千メートル以上の深海に潜っている。その深度だと、こちらもおいそれとは調査できない。軍用潜水艦では到達できない深度だ。三千メートル以上となると、深海潜航艇が必要だ。しかし、日本政府は超地震からの復興に力を入れており、異星人の探査にまわす余力はない。しかも、日本ではクボウの実害はまだ、ない」

 秀吉の言葉にかぶって、彼のスマートフォンにメッセージの着信があった。事態が事態だけに確認しないわけにもいかず、画面を操作する秀吉。彼は送られてきた緊急メッセージを一瞥して、胸がしぼむほど嘆息した。

「墜ちた。日本にも墜ちたよ」

「クボウか」

「函館市内だ」

「被害は?」

「都市部は完全壊滅らしい。市街の真上に落ちて、函館まるまるぺしゃんこだ。こんな大量虐殺は異星人の攻撃と断定すべきだ。侵略行為だよ」

「さてな」孔冥はすうっと細めた目で天井を見上げる。「それは早計かもしれない。だが、被害も大きいし、死者の数も相当だろう。これを異星人の攻撃と捉え、それ相応の反撃をする、あるいは報復攻撃を求める声がかなりあがると思う」

「当然だ。そんなのは当たり前だろう。日本でも、ひとつの都市がまるまる無くなったんだぞ。そこに居たすべての人命とともに。こんなのは広島長崎の原爆と同じだ。おまえ、よく冷静でいられるな。全世界で被害に遭った人の数は計り知れん。死者数だって見当もつかない状況なんだぞ」

「ああ、それはわかる。だからこそ、ジャバラが何を考え、何を欲しているのかを、正確に知る必要があると、僕は思うんだ。奴らの目的は何だろう。あいつらはいったい、何が欲しくて地球に来たんだ? すくなくともそれは人類殲滅ではない、と僕は思っている」


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