第21話 孔冥と秀吉 名称


 世界各地を襲った地震の被害は大きかった。震度九から十二の揺れが、本来は地震の起こらない都市を襲ったケースが多く、耐震建築がほどこされた東京の被害は比較的ちいさいと言えた。地震に何の対策もなかった世界の大都市は、高層ビルの倒壊と地盤の陥没により、壊滅的な被害を被り、復旧は不能。死者の数は天文学的な数字になるであろうと予想されていた。

 本来地震とは、一定の地域で起こる災害であり、被災時は近隣の都市が被害のあった都市を支援する体制がとられている。だが、今回の超地震は太平洋側の都市すべてで起こり、その規模も巨大であった。住民の救助および避難のしようがない。

 だが、それでも比較的被害の少なかった都市を中心に連携体制がとられ、人命救助および避難民の受け入れが始められていた。

 だが、そんな中、孔冥は一人、異星からの飛来物、超巨大飛翔体についてのデータを集めていたのだった。


「超巨大飛翔体については、直径約二百キロメートル。まえも言ったが、台風とおなじサイズだ。人間の常識で、これほど巨大な人工物は存在しない。万里の長城がおもちゃに見えるよ。地球に降下した機体……というのかな?は、全部で七基。太平洋の北と南、大西洋の北と南、インド洋、南シナ海。いずれも高度二百から五百メートルを維持して浮遊している。使用している推進装置は、未知の技術。おそらく人工重力だと思われる。そして、今日未明、これら各飛翔体がそれぞれ八基ずつの小型飛翔体を射出した。こちらは直径二十キロメートルと比較的小型のもの。といっても、直径二十キロだから、われわれのスケールでは、都市より遥かに大きいがね。で、この大都市サイズの小型飛翔体は母艦から飛び立ち、それぞれに展開して高度二百メートルほどで浮遊中。現時点で配置は完了したようで、移動はしていない。そして、これらの飛翔体は互いに連絡をとりあっていることが判明した。通信には、電磁波が使われている」

「通信を交わしているのか?」秀吉は驚きの目を見開いた。「じゃあ、やはりあれは異星人の宇宙船なのか?」

「そう考えて間違いない。少なくとも、天然自然の隕石ではない。人工物だよ。まあ、画像を見れば一目瞭然だが。少なくともわれわれの想像を絶する技術をもった知生体による宇宙船と考えるのが妥当だろう」

「通信の内容は分かるのか?」

「異星人の言語だぞ。分かるわけがない。通信には極超短波の電磁波が使われている。デジタル通信で、内容は単純。おそらく敵味方識別のための信号だろうとインドの学者チームは推測している。信号の形態からその言語は、母音が五つに子音が十の五十音。音の数が日本語と同じであるため、インドのチームはこれを基本的に日本語に翻訳した。それによると、あの直径二百キロメートルの台風並みの巨大要塞は名称が『テンクウ』。ちょっとそれっぽいな。で、小型の直径二十キロのやつが、『クボウ』。こいつらはお互いが味方であるという意味の信号を通信の最初に必ずつけている。その信号に日本語を当て嵌めた単語がこれだ」

 孔冥は秀吉に一枚のメモを渡した。そこにはボールペンの走り書きで、こうあった。

 ──ジャバラ。

「ジャバラ?」

「ああ。それが奴らの名前だ。どういう形態の、どういう知性をもった生命体かは分からない。だが、少なくともその名前だけは判明したというわけだな。いや、正確には人類が名付けたことになるが」

 秀吉はメモに目を落とし、もう一度孔冥と視線を合わせる。

 天才科学者は、嘲笑とも苦痛ともとれる笑みを頬にうかべる。

「奴らは、ジャバラというらしい」


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