2 〈星の湯〉、危機

「……え?」


 ナミが目の前の出来事を信じられず、呆然とする。

 ルルウラ=レイは叫んだ。


「追って! まだ間に合う!」


 ランダ=ガリアのけたたましい笑い声がぷつり、と途切れ、通信圏内から外れたことがわかった。


「ナミ、しっかりしろ! 行くぞ!」

「……え、ええ!

 何してくれるのよ!」


 母艦から放たれた火球。プラニスファーは、それを全速力で追う。


「〈星の湯〉って言った? 言ったよね?

 ……まだ今の時間、お客さんいるよ!」

「ナミ、落ち着いて」


 火球は大きくない。

 だが、正確に〈星の湯〉を撃ち抜くのだろう。


「跳躍機能で先に回って。」


〈跳躍機能〉。ワープのことだ。


「よし!」


 ユウスケが制御機器を作動させ、機体は白く光り、消える。


「さて。現地人の寄せ集めが、足元を守れるものかしら」

「ランダ=ガリア様もお戯れが過ぎる」


 そばに控えていた部下、ガンダ=ガンダがあきれた口ぶりで。顔には甲冑。表情は見えない。


「いずれあの機体はこちらのものになって、大量生産されるの。

 それまでに壊しちゃつまらないし、かといって動かさないのは錆びつくわ」

「寄せ集めであれだけ飛べるのか……」


 適応者が五人そろったのは幸運。

 だが。


「ルルウラ=レイが司令部に配置されているとはいえ」


 ここまであの機体をあやつるとは。


「もう少し見ましょうよ」


   * *


「受け止められるんですって? この機体? 手で?」


 ルルウラ=レイは、あの火球をまともに受け止めろと言うのだ。


「これは最終兵器って伝えたよね?」

「でも」

「あのくらいじゃ、君たちもこの機体も燃やすことなんてできないよ」


 仕損じたら。


「そんなことはない。君たち、幼なじみだけあって、動きがいいんだ」


 火球は刻一刻と近づいてくる。


「ヘイタって、キャッチャーだったよな?」

「そう言うマモルはゴールキーパーだったじゃねえか。マモルなだけに」

「二人で譲りあって決まらないなら、わたしが受け止めるよ! ハンドボールやってたし!」


 ナミが定まらない状況に耐えられなくなる。


「いや、ここはマモルにしよう。身体で受け止めたほうがよさそうだ」


 なぜか、特に理由はないけれど。

 五人でいるこんな時、ユウスケがいつもその時の方針を宣言するのだった。


「わかった」


 ここからはマモルの動きが、プラニスファーの動きとなる。


   * *


「えー、コーヒー牛乳ないの」


〈星の湯〉で、星町第三小学校五年三組、パンツ一枚の武山マコトはフロントのおじさん、ナミの兄であるシュウサクに口をとがらせている。


「ごめんごめん、ラムネしかないんだ、今日」

「じゃあ、ラムネでいいや。

 でも、お腹いっぱいになっちゃうんだよなあ」


 ははは、と、笑いながらおじさんはラムネの栓をあけて、渡してくれる。


「夏休みになったら、また学校に泊まるんだろう?」

「そしたら、みんなでまた〈星の湯〉に来るよ。

 お風呂に入らないと、汗っぽくて困るもんなあ」

「いいねえ、天文クラブ」


 学校に泊まり、天体観測をするのである。


「星の名前なんか、もう詳しいんだろうなあ」

「ちょっとはね」


 濡れた髪をタオルでごしごしふいてはラムネをひとくちする。


「今日は晴れてたなあ。

 ちょっとシュウサクさん、見てみる?」

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