3 「わたしたちが直した」

「フフフヒャヒャヒャ」


 星町上空に、おもちゃに追われる子供たちを眺めほくそ笑む影があった。


「逃げろ逃げろ。

 逃げた先には……」


 ニンギョウアミモトがあやつるおもちゃたちの背後には、肉眼では見えないアミモトネットが張り巡らされている。

 おもちゃたちは、子供たちを少しずつアミモトネットで囲い込み追い詰めてゆく。

 その先には大帝国レムウルの収監所へつながる異空間ゲートが待っているのだ。

 そう。カゲカドワカシに続きこの地球の子供を集める任務を与えられたのは、怪人・ニンギョウアミモトである。

 青い肌に、黒い網のような装備をまとい、節々は球体関節となっている。


「まずこの町内の子供たちをすべて収監し、適合者の秘密が大帝国の手に入れば。

 プラニスファーに匹敵するロボット兵器を増産し、残りの地球はすべて大帝国の支配下、この未開の地球は一大リゾート地に!

 あれ?」


 逃げる子供たちの姿が見えなくなった。


「どこへ行った?」


 おもちゃたちも、ふわふわと漂うばかりである。

 そのとき。


「ここにいたか! 大帝国レムウルの怪人!」


 プラニスファー内部に格納されていた五台のプラニスウイングにそれぞれ乗り込み、プラニセイバーたちが現れた。


「お前たちが噂の!」

「プラニセイバーだ!」

「子供たちは、プラニスウイングで救助済みです!」


 ヘイタとアオイの搭乗機が離れてゆく。


「なんだと……」


 ニンギョウアミモトは、プラニスウイングからの銃撃を避け、光線を避け、空中は不利と悟り、場所を移すべく逃走した。


   * *


「あっ」


 表の様子を見に顔を出したルルウラ=レイが、道の上に転がるおもちゃを見つけた。


「ニンギョウアミモトのコントロールが解けたんだな」


 拾い集めて、階段を駆け降りていく。


「みんな! おもちゃが元に戻ってる!」


 そこは、荒町の先輩がひらいた模型屋だった。

 階段を下りた地下にある店だったので、おもちゃたちも追ってこなかったのだ。


「ほんと?」


 おもちゃ病院の三人と店主、子供たちが歓声を上げた。


「ここが、へんな模型屋さんかあ。助かったわ」

「へんな、ってなんだよ」


 スナックのカウンターから先輩が笑いかける。


「おもちゃ病院、まだやってるんだな」


 店主がしみじみとしはじめた。


「はい」

「俺たちの代から始めたんだよな」

「そうだったんですか」


 ルルウラ=レイから元に戻ったおもちゃを受け取り、子供たちは嬉しそうだ。


「見てみろ。こんなに大事にされているんだぞ」

「……私たちが直したおもちゃがあんなになったって知って、最初なんだか怖くなったんです」


 荒町の言葉に、ほかの二人もうなずいた。


「そうじゃなくてよかったな」


 今度は三人そろってうなずく。


「その怖かった気持ち、大事なんだよ。仕事に責任を持っているから出てくる怖さだ」

「あーしもそれ、なんかわかる気がします」


 おもちゃ病院の先輩と後輩たちは、そうやってずっと子供たちを見ていた。

 ルルウラ=レイは、そっとその場から離れていった。

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