5 星空を取り戻す!

「なんでだよ? なんでお前たち追ってくるんだ? 想定外だ!」


 カゲカドワカシとしては、今日の失敗は明日以降で十分挽回できるものであり、ここでプラニセイバーとやり合って消耗する気はさらさらなかったのだ。


「お前は一線を越えた!」


 ヘイタが追いかけながら叫ぶ。〈霧影〉を出す間を与えないよう、ひたすら走り、追い詰める。


「ここは俺たちの町内、子供たちはマモルの生徒たちだ!」

「そんな意識で追ってくるのか? 縄張り争いの愚連隊と変わらないじゃないか!」


 追われれば、逃げなければならない。

 そして、実は〈霧影〉を発動するためにはとある発声が必要で、かような言葉の応酬の最中に〈霧影〉は発動できないのである。


「人さらいの分際で都合いい理屈言うな!」

「お前たちもいずれ大帝国レムウルの臣民となる! どうせ上層地球人のリゾート地とその従業員となるのだ。今からそんなちっぽけな縄張り意識の正義など……ウグっ!」


 そこにさらにユウスケが、先日受けたルルウラ=レイの特訓の成果を見せた! 


「あっごめん! プラニスレーザーの出力、間違った!」


 カゲカドワカシの左肩を強めの出力とされた光線がかすり、その場に転がる。出血がある。


(戦闘員……取り下げるべきではなかったというのか……想定外……)


 大帝国レムウルの戦闘員はその使用に際して申請が要る。

 今回カゲカドワカシは未開の地球、集めるのは子供、と、高をくくって小回りを優先し、一旦出した申請を取り下げていたのだ。


「あっ、また間違えた!」


 続いて左足首を焼かれたのだが、それは幸い火傷程度である。しかし痛い上に動作しづらい。


「覚えていろ!

 ハハ……ハハハハハハ……」


〈霧影〉を発動し、消えていった。


「ルルウラ=レイ。ごめん。俺が仕留めそこなったし誤操作まで」


 ユウスケが謝ると、


「ううん。ダメージは与えられたから」

「あれでも大丈夫か?」


 マモルたちが追いついた。

 ここは、河川敷である。

 夜の川が静かに流れている。


「子供たちは家に帰っていったよ」

「それならよかった」


 ルルウラ=レイが安堵する。


「課題が見えたね」

「あいつも逃がしたしなあ」

「え、逃げたの?」

「ううん」


 ルルウラ=レイは首を振る。


「まだ臨戦態勢を解かないで。

 大帝国レムウルは残虐なんだ」

「残虐……」


 ルルウラ=レイは星空を見つめる。

 さっきマモルが生徒たちに見せた夏の大三角が輝いている。


「……ん?」


 何かが叫びながら落ちてきた。


「……もう一度、もう一度機会を!」

「あれ、あいつじゃないか?」


 カゲカドワカシが川面めがけて落ちてくる。


「一度の失敗で解任とは! ああ! 想定外……いや……想定内か……ハ……ハハハ……うまく笑えないと〈霧影〉が発動しねえ!」


 派手な水音を立てて落ちていった。地元民は知っている。あのあたりは深い。


「司令官ランダ=ガリアは人材を非情に使い捨てする」

「なんて奴だ」

「戦闘員を申請しなかった見込みの甘さ。

 誘拐にも失敗した上に負傷して逃げ帰った。

 もうだめだろうね。再雇用もない」

「あいつ、生きてるの?」

「放っておいていいよ。なんとかするんじゃないの? そのための〈霧影〉でしょ?

 生きていたとしても、もうあいつは馘首されたから、こっちの地球で子供をさらう理由もない。僕らとしては、心配ないよ」


 ルルウラ=レイの冷静さも、再雇用なしの大帝国も、なかなか非情だと商店街の仲良し五人組は思った。この地球が例外的に、長くその非情さから見逃されてきた、ということでもあるのだろうが……


「帰ろう?」


 こうしてプラニセイバーは二度目の勝利をおさめたのだが、ユウスケがふと思った。


「こうして怪人を撃退して、奴らがそのたび解雇されたら……」


 この地球は、失業した怪人がうろうろするようになるのではないだろうか。


(これは……)


 しかし、その憂いを今は胸にしまい、


「〈星の湯〉の子供たちを迎えに行こう」


 星の輝きと川の流れだけが変わらず静かだった。

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