4 ルルウラ=レイ、星町へ

「このへんのはず」


 ルルウラ=レイは、水色の髪に合う紫色のキャップをかぶって星町を走っていた。

 某所で待機していたプラニスファー内で、怪人カゲカドワカシ出現をキャッチしたためだ。


「訓練で集まった時、天体観測って言ってたから、みんな学校にいるんだよね? たしか今夜だ」


 しかし、町内が騒がしい。

 憔悴した様子の大人たちが小学校へ向かっている。


(保護者かな)


 気の毒に。そして、おそらくその憔悴の訳は。


(カゲカドワカシは誘拐を得意とする怪人で、どの地球でもその悪名は轟いている。やはりすでに?)


「よお、ルルウラ=レイ」


 間延びしたような声で名を呼ばれ、ぎょっとする。


「ザムザム=ギル?」


 テラス席のある商店街の居酒屋で、ザムザム=ギルが相席のサラリーマンたちとビールを飲んでいたらしい。空き瓶がいくつも並んでいる。


「何やってるんだ?」

「お前、ちょっと初動が遅いぞ。俺は関係ないけどな、ハハハ」

「すみません、揚げ出し豆腐と手羽先追加で」


 頭にネクタイ巻いてるおじさんたちと意気投合してる……


 一瞬、虚を突かれたかたちとなったが、


「急ぐんで」


 駆けだして離れた。


「酔っ払いに付き合ってられないよ」


 それにしてもザムザム=ギル、大帝国レムウルから逃亡したのではなかったのか。こんな町内にいていいのか。

 だが余計な心配をしている場合ではない。


「マモル! ヘイタ!」

「ルルウラ=レイ!」


 ちょうど〈星の湯〉に向っていた二人に合流できた。


「何かもう起こってしまった?」

「子供たちが帰らないって」

「やっぱりカゲカドワカシが!」

「なんだよそいつ」

「大帝国レムウルの怪人反応があったから来たんだけど……ごめんなさい、もっと早く察知できていれば」

「そんな。今はそんなこといいよ」


 ヘイタが肩を叩いて、


「それよりナミたちが子供たちと〈星の湯〉に向っていて。そこを狙われたらと思ってさ」

「急ごう」


 ルルウラ=レイの手首のセンサーが小さく反応する。


「〈霧影〉が発生している」

「キリカゲ?」

「異空間みたいなもの。奴、大帝国レムウルのカゲカドワカシが誰かをさらうときに使う」

「どこ?」


 肉眼では確認できないようだ。


「プラニススコープを使って」


 マモルとヘイタは強化服に身を包み、指示の通り見ると。


「子供たちが!」


 強い吸引力を持つ小箱を片手に笑う怪人と、その力に抗う仲間と子供たち。

 見えた次の瞬間、反射的に跳んだ。


「なんかよくわからねえけど、やめろ!」


 二人の蹴りが、カゲカドワカシの小箱にヒットする。


「なっ? 霧影に乱入だと?」


 強化服の適合者と、子供たち。喜ばしい獲物を目の前に注意がおろそかとなっていた。


「あっ!」


 カツン、と軽い音をたてて小箱はアスファルトの上に落ち、


「逃げろ、みんな!」


 中からタナカを先頭に子供たちがぞろぞろと出てきて、それぞれの家に向って走っていった。あっけなかった。


   * *


「タナカくん!」


 強化服を解いたいつもの姿のナミが声をかける。


「とりあえず〈星の湯〉にみんなを運ぶわよ」

「なんだよ、なんだったんだよ、今の! 気がついたら狭いとこにみんなで閉じ込められて!

 それにみんなは? やられなかったのか? どうして倒れてるんだ?」


 そこに。


「いったん安全な場所に行って、落ち着こう」

「マモル先生」

「タナカ、あきらめないでよく脱出した」

「……よかったあ……」


 なんとか〈星の湯〉に到着するとマモルは学校へ連絡を入れ、生徒たちが落ち着き次第戻ると伝えた。

 気を失っている生徒たちのためには、ナミの兄、シュウサクが休憩室を使わせてくれた。


「なんだか大変なことになってますね」

「すみません」

「あ、先生、学校へ?」

「すぐ迎えに来ます」

「お兄ちゃん、あたしもちょっと出てくる!」


 マモルとナミが、走り出す。


「今、どこだ?」


 ブレスレットの通信機能を使い、カゲカドワカシを追うユウスケたちの位置を確認する。

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