第27話 運も実力
-冒険者ギルド-
「どういうことか説明してもらおうか」
ギルド長のビルが口を開いた。
今、クルスはギルド長の部屋のソファに座らされている。そして向かいのソファにビルが座ってクルスを見つめていた。ベルはクルスの座っているソファの後ろに座って2人のやりとりを聞いている。
(まさかハイオークの頭部を持ち帰ってくるとは・・・)
さきほどセーラの悲鳴を聞いて、部屋から飛び出してきたビルの目に飛び込んできたのは、カウンターに置かれたハイオークの生首だった。涙ぐんでいるセーラから事情を聞き、ビルの姿を見て慌てた様子のクルスを、自分の部屋へと連れてきたのである。ハイオークの生首の処理は、他のギルド職員にお願いしておいた。
「そ、その・・・偶然倒せたので、と、討伐の証明に・・・」
緊張しているせいか、クルスの返事がぎこちない。ビルはクルスをジッと見つめていた。
(嘘はついていないようだが・・・)
ビルが気になっていたのは、新人冒険者、しかも昨日正式になったばかりの冒険者に、果たしてハイオークを倒せるのかということである。通常ハイオークには銀級冒険者が対応する。鉄級冒険者がハイオークと戦うなど、狂気の沙汰にほかならない。そのため、運良く倒せたと言われても簡単には信じることが出来ないのである。
「ではどのようにして倒したのかね?」
「そ、それは
ビルの問いかけにクルスが
(それが本当なら、この少年はかなりの実力がある・・・?)
ビルは悩んだ。少年の
「ソルトめ・・・ヤツの秘蔵っ子だったか」
「はい? ソルト? 村長ですか?」
ビルの呟きにクルスが不思議な顔をしている。ビルは立ち上がると、少し厳しめな表情でクルスを見据えた。
「いや、なんでもない。話はわかった。討伐の報酬は渡せるだろう。しかし、新人なのだから今後は無理はしないように。よろしいかね?」
「は、はい!」
慌ててクルスも立ち上がり、大声で返事をした。
「以上だ。下がってよろしい」
「し、失礼します」
クルスは逃げるように部屋を出ていった。その後ろをベルもトコトコと付いていく。
ひとりになったビルは自分の机の方に戻った。
「名前はたしかクルスか。実力があるかの判断はもう少し様子を見てからにしよう」
※※※
『完全に目をつけられたようですわ』
ギルドの休憩所で休んでいるクルスにベルが話しかけた。ベルの言葉にクルスは驚く。
「え? なんで?」
『やはり不自然ですもの。おそらくギルド長はあなたを実力者と見なしたかもしれませんね。もしくはペテン師かもしれませんわ』
当然だと言わんばかりの顔でベルは答えた。クルスの顔がだんだん曇ってくる。
「・・・それってマズいよね?」
『どうなるかはわかりませんが、実力ではなく武器のお陰なのは、誰にも知られないほうが賢明ですわ』
遠まわしではあるが、改めてベルに実力がないと言われてクルスは少しガッカリする。それでもふと思い直した。
(待てよ。こんな凄い剣を手に入れられたこと、もしかしてそれ自体が実力では・・・?)
クルスは昔から楽観的で前向きな考えの持ち主だった。運も実力のうち。そう結論付けたクルスは突然元気になる。
「大丈夫。そのうち実力もついてくるよ。よし、報酬貰って帰ろう」
「・・・」
急に立ち上がって、カウンターに向かうクルスを見て、ベルは無言のまま、ただ呆れていた。
カウンターにはセーラではなく他の職員がいた。どうやら、セーラは奥で休んでいるようだ。クルスは職員から報酬を受け取ると、ギルドを後にした。
「初めての報酬だから、今夜は美味しいものを食べよう!と言いたいけど、宿の食堂で事足りてるからなぁ・・・」
「村にいたときより、良い暮らしもしてるし・・・」
「今すぐ買いたいものもない・・・」
街を歩きながらクルスはブツブツと独り言を言っていた。そんなクルスを後ろから見ながら、ベルは今後のことを考える。
(王都へ行くためには、クルスの等級を上げて、護衛任務をさせて移動するよりも、報酬を旅費として貯めたほうが早そうですわね・・・)
いずれにしろ、だいぶ先の話である。
あれから150年くらい経っているのに、規模こそ違えど、さほど変わっていない街並みを眺めながら、ベルはクルスの後ろをおとなしく付いていった。
リバースクロニクル -夢見る少年と白い猫- ラミウス @ramius
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