第26話 騒動

-冒険者ギルド-


全身に緑色の液体を浴びたクルスが冒険者ギルドの中に入ると、ギルドの中は騒然となった。何とも言えない臭いがギルドを包む。

受付のセーラが眉間にシワを寄せながら、クルスの前に走ってきた。


「あ、セーラさん。あの――」


「その前に裏に行って、全身を洗ってきなさい!」


いつもは温厚なセーラが、今回ばかりはおかんむりの様子で、有無を言わさずクルスを追い出す。ベルはというと、臭いの届かないギルドの入口から、クルスをそっと覗いていた。


クルスはギルドの裏の洗い場で、緑の液体を落としている。


「やっぱり怒られた・・・」


『仕方がありませんわ。あの格好のまま、宿聖なる宿り木には絶対入れませんでしたもの』


ベルの声が柵越しに聞こえてくる。

洗い場は周りから見えないように柵で覆われていた。ベルは柵のすぐ隣に座っている。柵に立てかけてある、剣が納められた鞘を険しい顔をしたベルが見ていた。


『それにしても、とんでもない剣ですわ』


「うん・・・。あの時、斬った感じが全くしなかった」


クルスはベルに相づちをうちながら、剣を握っていた手を見つめる。

鍛冶屋でその剣を見たとき、クルスはキレイな剣くらいにしか思っていなかった。一方ベルは普通の剣よりは切れ味が良さそう、と思っていた。

そして薬草採集で魔物に遭遇するという、変則的な出来事があったお陰で、本当は誰でも簡単に斬ってしまう、恐ろしい剣だということが判明した。


『確かな事は言えませんが、剣にかけた魔法が軽くする以外にも、切れ味を抜群に良くしたのかもしれませんわ』


険しい表情を変えないベルが呟いた。


(鍛冶屋のダンさんに話しておくほうがいいかな・・・)


後日、鍛冶屋に顔を出そうとクルスは思った。


汚れを落としたクルスは、ギルドから借りた服に着替えた。荷物を持って、ギルドの中へと入っていった。


「あの・・・先ほどはご迷惑をおかけしました」


クルスはカウンターに向かい、そこに座っていたセーラに謝った。


「酷い格好で来る冒険者には慣れているから、気にしないでね。クルス君はちょっと酷すぎたけど・・・」


セーラはさきほどのクルスの姿を思い浮かべて苦笑した。そんなセーラを見ながら、クルスはおずおずと話を切り出した。


「それでですね。薬草を取ってきたのですが・・・」


「さっそく初仕事をやってきたのね。あれだけ汚れたんだから、どれだけ頑張ったのか、見せてちょうだい」


セーラに言われ、クルスは持っていた袋から薬草を取り出してカウンターに置いた。セーラは置かれた薬草をじっくりと吟味する。


「どうですか?」


「初めてにしては量も多いし、質も悪くないみたい。すべて買取させていただくわ」


セーラの言葉にクルスはホッとする。


「よかった、全部お願いします。それとひとつ質問が・・・」


「あら、なあに?」


薬草をカウンターから他に移しているセーラがクルスを見る。


「偶然魔物と遭遇しまして、それを討伐したのですが、見てもらえますか?」


「薬草を取ってきたのは近くの森よね。もしかしてかなり奥まで入ったんでしょう?」


クルスをジロリと見つめるセーラ。


「そ、その少しだけ・・・。今度からは気を付けます・・・」


「もうしょうがないわねぇ。お姉さんを心配させちゃダメよ、クルス君」


『前言撤回。無垢の少年をかどわかす小娘ですわ(ニャン)』


セーラの少し艶のある声に、顔を赤くするクルス。後ろからベルが何やら言っている。


「それじゃ、見せてちょうだい」


セーラに言われ、クルスはもうひとつの大きめの袋から、布に覆われたあるものを取り出してカウンターに置いた。クルスが布をめくっていく。


ハイオークの生首だった。


『・・・魔物の討伐を証明出来れば、報酬がもらえますわ』


森でハイオークを倒したあと、ベルがクルスに言った言葉だ。ただし、ベルはハイオークの討伐証明がどこなのか知らなかった。もちろんクルスも知らない。


『魔物の顔さえわかれば、何を倒したのかわかりますわ』


ベルのその一言でクルスはを持っていくことを決める。クルスは吐きそうになりながらも、倒れているハイオークの首を切り落とした。切り落とした首を持ち上げ、出来るだけ緑の血を抜いたあと、丁寧に布で包んだ。それを大きめの袋に入れたのだった。


セーラはカウンターにおかれた首を見つめている。


「・・・」


「これなんですけど、証明になりますよね?」


クルスが不安そうにセーラに聞いた。


「キャーーーーー!!」


次の瞬間、セーラの叫び声がギルド中に響き渡った。





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