第13話 2つの不可解
-ナムル村 クルスの家-
クルスは自分の部屋のベッドの上で横になっていた。足元にはベルも座っている。
夕食前に帰ってきた父親のルークに、なんとか猫を飼う了承を得ることが出来た。兄のレオンは猫に興味はないらしい。
冒険者の事については、妹のミアが食事中に話題にせず、クルス自ら言わなかったため、結局ルークにもレオンにも話していなかった。
夕食後、少し疲れたから横になると、クルスは早々と自分の部屋に入ったのだった。
「成り行きで飼う事になったけど、構わないよね?」
『若くて美しいエルフとしては、飼うと言われると不快ですが、この姿になってかなりの年月が経ちましたの。もう慣れてますわ』
ベルの〈かなりの年月〉に引っ掛かりを覚えたクルスは、天井を見てた顔を足元にいるベルに向けた。
「かなりってどのくらい?」
「220年程ですわ」
想像を超えた返答に、思わずクルスは上半身を起こした。
「え、ババアじゃん!」
ベチーーッ!!
柔らかさと弾力性を持ち合わせる、ベル自慢の肉球がクルスの頬に渾身の一撃を与えた。
『失礼な人間ですわね、クルス。よろしいこと、わたくしは清楚で美しく、そして若いエルフなのですわ!』
清楚なんて聞いてないぞと、少し赤くなった頬を撫でながらクルスは反論しようとしたが押し止めた。あくまで猫だ。叩かれても痛みはないに等しいが、なぜか精神的なダメージはかなり大きいような気がしたクルスだった。
『どうしてそんなに長く生きているのか、と言われる前に答えますわ。これも呪いですの。猫になったと同時に、どうやら不老不死の存在に。つまり死ねなくなったのですわ。』
ベルの話の中の不老不死と聞いて、クルスが真っ先に思い付いたのが、おとぎ話に出てくるドラゴンの伝説である。数千年は生きるとされているドラゴンの血を飲むと不老不死になると言われている。
おとぎ話では
「なんかドラゴンみたいだ」
『不老不死の伝説ですわね。昔、呪いを解く糸口として、ドラゴンを探した事はありますが、人違いならぬドラゴン違いでしたわ。今思い出しただけでも腹が立ちますわ!軟弱邪竜め・・・』
(なんじゃくじゃりゅう?)
すごく怖そうな顔してるベルを見て、深く聞くのを止めたクルスだった。
『ところで、この村はいつ設立されたかご存知です?』
「たしか148年くらい前だったはずだよ。戦争の後にここに人々が入植して開拓村になったって聞いた」
教会の勉強で、司祭様から連合王国の始まりを教えてもらっている時に、開拓村の話が出たのをクルスは覚えていた。
『・・・今年は何年ですの?』
(建国祭したのいつだっけ・・・思い出した)
「
『新・・・王国暦・・・』
ベルが徐々に難しい顔になっていく。それを見てクルスも不安になってきた。
『何か不味いこと言った・・・?』
『わたくし、洞窟から出てから不可解な事が2つございますの。1つ目は、バナックの森を最近通った事がありまして。その時、森の中に敵の拠点・・・建物がいくつかあったのですが、全て破壊されガレキとなりましたわ。それらはちょうど、洞窟を出たところにある木の無い空間なのです。今日通った時いくつかガレキが点在していましたが、長い年月が経過したかような、あの朽ち様・・・』
敵という物騒な言葉が出てきたがクルスは黙ってベルの話の続きを聞く。
『2つ目は先ほど聞いた村の設立ですの。先ほどバナックの森を通ったと言いましたが、その時この村を見た覚えがないのですわ。そして新王国歴・・・わたくしが知っている今年は王国暦3357年』
「王国暦って、新王国暦の前の日の
難しい顔から蒼白になっていくベル。
『クルスはクレオスの事を夢で見たと言いましたね。それ以外でクレオスの名前を聞いた事はございません?』
「あるよ。連合王国を建国したクレオス王。魔王を倒したから、英雄王クレオスって呼ばれてる」
『・・・そういう事ですか』
クルスの言葉でベルはすべてを理解したみたいだ。しかしその顔は深い悲しみに覆われていた。
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