第12話 冒険者
-ナムル村 村長の家-
村長の家を出たクルス達。夕日が空を橙色に染めている。父親のルークはどこかに用事があるらしく、クルス達と別れた。クルスとジムとメラニーの3人で帰路につく。彼らの後ろをベルがついていく。
「クルス君、その猫ちゃんに助けられたって本当なの?」
「本当だよ。もしかして幻でも見たと思ってる?」
改めて聞いてきたメラニーに、クルスは少しだけうんざりした表情で聞き返す。
「違うの。猫ちゃんがクルス君を助けてくれたのなら、お礼を言わなくちゃと思ったのよ」
「そ、そうだね」
メラニーらしい発言に、不明を恥じるクルス。本人には言ったことはないが、優しいし、気立ても良い、素敵な女の子だ。小さい頃からいつも一緒にいる、気の置けないひとりだ。
そのせいでクルスはメラニーに対してまったく恋愛感情が湧かない。大人になったら素晴らしい女性になるだろうと、謎の上から目線をしているほどだった。そういえばジムはメラニーの事をどう思ってるんだろう。
「猫ちゃん、クルス君を助けてくれてありがう」
『小娘にしては礼儀正しいようですね。わたくしは当然の事をしたまでですわ(ニャー)』
「返事してくれた。可愛い!抱っこしてあげる」
メラニーが抱き上げようとすると、ベルが両手をするりとすり抜けた。
『これとそれは話が別ですの。気安く触らないでいただきたいわ(ニャッ)』
「あれ?クルス君には懐いているのに・・・」
メラニーとベルのやり取りを見ていて、クルスは思い出した。ダンジョンの石の階段から抱き上げて村に戻ったが、ベルは大人しくしていた。本当は相当我慢していたのだろう。
「今日みたいな日はもう勘弁してほしいけど洗礼の儀が終わったから、もう気軽に遊べなくなるなぁ」
やり取りの横で笑っていたジムがふいに夕日を見ながらつぶやいた。
「そうだね。あたしは近くの服屋で働く事になったし、ジム君は家業の定食屋だよね。クルス君はどうなの?家業の道具屋?」
ベルを抱き上げようと頑張っていたメラニーが振り向いて、少しだけ残念そうな顔を見せる。
洗礼の儀を受けると成年と見なされるが、成年となった子供たちは働きに出る。そしてもう子供扱いされない。例外は王都にある騎士院と魔法院、そして各領都にある兵士院にいく子供だけだ。
クルスはというと、この先の事を全く考えていなかった。洗礼の儀はクルスにとって森の洞窟に入って宝物を見つける、交通手形くらいの位置付けだった。
何か仕事をしたいなんて考えもしていなかったし、家業の道具屋を継ごうにも兄のレオンがいる。クルスはどう言おうか返答に困っていた。
「クルスのことだから、お宝を目指して冒険者になるんじゃないの?村長が言ってたけど、もう少ししたら冒険者ギルドが建つだろう。丁度いいじゃないか」
ジムからの思いがけない発言に、クルスは思わず飛び付いた。
「そ、そうなんだよ。冒険者になろうと思っててさ・・・」
「すごい。でも危険じゃないの?」
メラニーは心配そうな顔をしている。
「もちろん危険さ。でも誰も見た事がない宝を見つけたらすごいだろ!」
偉そうにクルスが熱弁をしているが、もちろん虚勢だ。知ってか知らずか、やっぱりクルスはクルスだねと、笑っているジムとメラニーだった。
『浅はか過ぎますわ』
下の方から何か聞こえたが、クルスは無視した。
※※※
2人と別れたクルスが家に帰ると、夕食の準備をしていた妹のミアが台所から飛び出してきた。
「心配したんだからね、お兄ちゃん!」
「ごめんごめん。見ての通り何ともないよ」
クルスの軽い返事はミアの逆鱗に触れる。
「全然懲りてないでしょ!洗礼の儀に行くのに早朝から物置をガチャガチャやって何だと思えば、森にいく準備!午後からいないと思えば怪物に襲われた?まったく!」
ミアの文句はまだまだ止まらない。
「いい歳してお宝探しなんかするからよ。どうせ働くなんてこれっぽっちも考えてないんでしょ。メラニーお姉ちゃんは服屋にいくって言ってたし、ジム兄は定食屋継ぐって聞いたよ。こっちの身にもって!」
お前はいつ嫁になったのかと、クルスは言いたかったがここは素直に謝る。
「本当に悪かったよ。心配かけたね。それにもう働き先は決めてあるんだ」
「えっ、本当に?どこで働くの?」
ミアは心底驚いた顔をしている。
「冒険者」
「・・・」
ミアがクルスをジーッと見ている。
「お兄ちゃん、冗談は間に合ってる」
「本当だよ!」
「1度でも剣を振ったことあるの?無いでしょ。呆れた」
もう言われ放題だ。
『ずいぶん若い奥方ですわね。ご立腹してる様子』
「妹だよ。お兄ちゃんって言ってただろ」
クルスの後ろにいるベルが面白そうに見ている。
「お兄ちゃん、なにブツブツ言ってるの?あ、白猫。どうしたの?」
ミアがベルに気づいた。クルスは今までの事を説明しようかと考えたが、話が
「猫飼いたいと思って・・・」
「ふーん。お父さんが許可してくれたらいいんじゃない?」
「うん、頼んでみるよ」
「世話は自分でして」
捨て台詞だけ残してミアは台所へ戻っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます