第10話 再会

-バナックの森 洞窟 隠し通路-


「クルス!」


階段の上からクルスの聞き覚えのある声が響いた。


「父さん!」


クルスも大声で呼び掛けに応える。少しして2人の大人が近づいてきた。衛兵とクルスの父親であるルークだ。衛兵はたいまつと槍を携えていた。ルークの手には鎌が握られている。ジムとメラニーはどうやらいないようだ。


「少年、大丈夫だったか?」


先頭を歩いてきた衛兵が声をかけてきた。


「なんとか助かりました」


クルスが衛兵に答えると、後ろにいるルークが安堵の表情を浮かべる。


「無事でよかった!それで怪物はどうなったんだ?」


「それが・・・この猫を見つけて・・・猫が魔法で怪物を倒してくれたんだ」


クルスが足元にいるベルに視線を向けると、3人もベルを見る。


『あたくしが倒しましたのよ(ニャー)』


クルスには自慢げに話すベルの言葉はわかるが、2人にはわからないようだった。ルークがクルスに視線を戻すと、優しげな顔をする。


「クルス、怖かっただろう。もう大丈夫だ」


どうやら恐怖で幻でも見たのだと思われたのだろう。普通に考えるとそうだよなと、クルスはこれ以上何も言わなかった。ルークと衛兵は階段が明るくなっているのを不思議がっている。


「階段が明るいのは気になりますが・・・息子さんを保護したら、直ちに村に戻るよう村長から言われています。ここの調査はその後になるでしょう」


「それに怪物が出てくるかもしれませんね。急いで戻りましょう」


衛兵の言葉にルークが頷くと、ルークが先頭、衛兵が後方、そしてクルスが中央の順になって階段を上り始める。ベルはクルスに抱きかかえられている。


「やっぱり他の人には聞こえないようだね」


『いつものことですわ』


移動中、クルスとベルは小声で話す。クルスはそういえばと先頭を歩くルークに声をかけた。


「父さん、ジムとメラニーは?」


「子供たちは今、村長の家で待機しているよ。村に戻ったら、我々もそのまま村長の家に向かうからね」


クルス達は広くない隠し通路を通り、洞窟へと出た。矢継ぎ早に移動し、とうとう洞窟の外へと出ることが出来たのだ。クルスが空を見るとすでに日が傾いていて、村に戻る頃には夕方になっているだろう。

生い茂った草むらを見ると、1本の通路が出来ている。ルークが持っている鎌で草を刈り取り、洞窟まで来たようだ。窪地を上りきって、木々のない草むらの空間を通りすぎている時、ベルがブツブツと独り言を始めた。


『ここは・・・まさかあの拠点?ですが、ガレキの朽ち具合は・・・この荒れようは一体・・・』


クルスはベルにどうしたのかと聞きたかったが、どうもそんな雰囲気ではないらしい。


3人は森の出口へと急いだ。


やっと村にたどり着いた。

生きて戻ってこれてよかったと、クルスはとても感動している。今日だけで色々な事があった。洗礼の儀式。洞窟への宝物さがし。怪物との遭遇。そして九死に一生を得て、ベルとの出会い・・・。思わず泣きそうになっていたせいで、クルスはベルが難しい顔をしながら小声で言った言葉に気付かなかった。


『森の近くに村なんてあったかしら・・・』


村に入るとルークが地面にベルを置いているクルスに振り向いた。


「先に衛兵さんと村長の家まで行きなさい。一旦家に戻ってレオンたちに無事を知らせてくる」


家に向かうルークと別れ、衛兵とクルスは村長の家へと急いだ。クルス達の後ろをベルもついていく。


※※※


クルスが村長の家に入ると、突然メラニーが飛び込んできた。


「クルス、無事でよかった!」


「なんとか無事だったよ」


泣きながら抱きしめているメラニーの背中をクルスはポンポンと軽くタッチした。ジムも椅子から立ち上がってクルスを見ている。そして泣きそうな顔をしてうんうんと頷いていた。


「さあ。皆、席に着きなさい。クルス君、無事でよかった。私も救出に行こうとしたのが、そこのガーランド君に止められてしまってね」


「村長に何かあったら、大変ですからね」


クルスと後ろにいる衛兵を見ながら村長のソルトが微笑んでいる。助けに来てくれた衛兵さんはガーランドという名前らしい。ソルトが座ると、ガーランドも座った。メラニーとジムもやっと落ち着き、席につく。最後にクルスが席に着いた。ベルはというと、全員の意識がクルスに向いていて、白い猫が入ってきて座っているのに誰も気付いていなかった。


「疲れているところをクルス君には悪いが、何があったのか話を聞きたい。もしかしたら一大事かもしれない」


ソルトがクルスを見ながら話を続ける。


「ジム君とメラニー君からはクルス君と別れるところまでの話を聞いている。だが、 クルス君の口からもう一度何があったのか、最初から詳しく話してもらいたい。洗礼の儀式が終わったあと、君たちは集まったのだね?」


「わかりました。少し話が長くなりますけど、いいですか?」


クルスが念のためソルトに伺うと、ソルトは深く頷いた。


「どんなに小さな事でもいいから話なさい」


クルスはバナックの森に入ったところから話を始めた。

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