第7話 ダンジョン

-バナックの森 洞窟 謎の一室-


パナシュ連合王国、キーエルン領の都市キーエに神聖樹という超巨大な木がある。樹齢数千年とも言われ、キーエルン領を治めるエルフ達によって厳重に管理されており、気軽に触れることは出来ない。

神聖樹は年に1度、果実を実らせる。その果実には魔力が蓄えられていると言われており、それを食べた人物には魔力が宿るのである。魔力を持つと魔法を唱える事が可能になり、魔法使いになるのだ。そのため一般的には魔法の実と呼ばれている。

しかし、魔法の実には欠点があった。実る数が数個と極端に少ないうえ、広大で数多い巨大な枝のどこに実るかもわからない。そして、運良く実を見つけたとしても、枝から採ってそれほど時間が経たない間に腐り始め、魔力も無くなるため、その場で口にしないといけないのだ。その困難さから神聖樹が食べる人物を選んでいるとさえ言われている。


数百年前までは、魔法の実が実る数は、極端というほど少ないわけではなかった。そのため当時はキーエにいる多くのエルフが魔法使いになる事が出来た。しかしが起こり、現在の状態になってしまったのだ。この出来事はいくつかの文献に載ってはいるが、知る者は少ない。


※※※


クルスは倒れた緑色の怪物の近くに行き、その哀れな姿を見下ろしていた。怪物の全身は焼け焦げて真っ黒になっており、金属の棒は熱で溶けて、板状に姿を変えていた。


「この怪物は一体・・・?」


『これはゴブリンという魔物ですわ。それも上位のボブゴブリン・・・赤い目をしてましたもの』


後からやってきた白猫の言葉にクルスは驚愕する。


「これが魔物なんだ。ホンモノの魔物なんて初めて見た・・・」


遠いどこかにいるであろう魔物が、実は村から遠くないところにいた。それだけでもクルスにとっては衝撃だった。魔物の事が村に知れ渡ったら、きっと大騒ぎどころではないだろう。


『よかったですわね、あなた。ただのゴブリンなら一般的の者でもなんとか倒せますが、ボブゴブリンは戦闘に熟知した者でないと倒せませんわ』


もしも先ほどまでいた一室に留まって、誰かが助けに来てくれたとしても、おそらく助けに来た人はボブゴブリンにやられていた。最悪の結果を想像して、クルスは顔を青くした。


「あそこで待ってたら、危なかったって事か・・・」


クルスと白猫は焼け焦げたゴブリンを後にして、鉄の扉を目指して歩き出した。白猫は辺りを見回して何か考え事をしてる。どうしたのかとクルスが白猫を見ると、クルスの視線に気付いた白猫は話し出した。


『太陽が照らしているような明るさ。草原のような風景。そして魔物・・・おそらくと見るべきでしょう。この草原以外にも、いくつか違う空間があるかもしれません』


白猫の説明はつづく。


『詳しいことはわかりませんが、なんらかの原因で地上に残った魔力が徐々に地中深くに融け出し、それがダンジョンを形成すると言われていますの。いずれにしても探索しない事には、ここがどのようなダンジョンなのかは判りませんわね』


「ここがダンジョンだって!なら宝箱も?」


ダンジョンと聞いて、ついつい宝箱の事を聞いてくるクルスに対して、白猫は呆れたような顔をする。


『あるとは思いますわよ。ただ、ダンジョンだと・・・どうなのでしょうね』


「若いダンジョン?どうして若いとわかるの?」


クルスの疑問はもっともである。白猫はここの事を知らないようだった。それならどうして若いと言えるのか。


『バナックにダンジョンがあるなんて、聞いた事がないからですわ。ドワーフの国にあるダンジョンは形成されてから千年は経っていると言われてますし』


「そうなんだ・・・」


さすがに千年というスケールに驚いたクルスだが、それよりも白猫の言葉の別の事に少し引っ掛かりをおぼえた。


(ドワーフの国?ドワーフの都市と間違えたのだろう)


クルスと白猫はあたりを警戒しながら移動している。鉄の扉に近づいてきたところで、クルスはふと気付く。


「そういえば、あんたの名前を聞いていなかった」


『よくぞ聞いてくれました。わたくしの名前はベル。若くて美しいエルフのベルとはわたくしの事ですわ!』


しっぽがそびえ立つ気高いポーズがクルスの目の前に出現したのだった。

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