第6話 白い猫②
-バナックの森 洞窟 謎の一室-
『あなたはこれから、どうするおつもり?』
白猫に聞かれ、クルスは少し考える。
(隠し通路は塞がれていたから、誰も通れない。つまりこの猫は違うところからここに来たはず・・・!)
「あんたは歩いて地上からここまで来たんだろう。付いていくから案内してよ。それともここに住んでるの?」
『まさか。こんな所に住むわけがないでしょう。それとわたくしは歩いてここまで来たわけではありませんの』
期待していた言葉と違う事を言われたクルスは落胆したが、それでも諦められず白猫に言い寄る。
「だったらどうやって来たんだよ!」
『もう落ち着きなさい。そちらをご覧になって』
白猫の視線がクルスから外れ、クルスの後ろのほうへと移った。クルスが振り向くと、地面に玉のようなモノが半分埋まっている。それはクルスが気を失う直前に触った玉だった。
クルスが少し近づいて見ると、玉の周りには腕の長さくらいの不思議な模様が円形に描かれていた。
『それはゲートと呼ばれる魔方陣のひとつ、魔法みたいなものですわ。その上に立つと全身が消えて、他の所にあるもう一方のゲートの上に消えた全身が現れる、簡単言うとそういう仕組みですわ』
「つまり、他のゲートからここに来たの?」
『本来ならそうなのですが・・・ええ、そこに現れたのには変わりませんわ』
何やら歯切れの悪い、噛み合わない返事ではあったが、クルスにとってはそもそもゲートと言うものすらよく理解していない。それでもひとつ解ったことがある。そのゲートに上がると、ここから出られるだろうと。
「今すぐ、それに上がってここから出よう。もう一方っていうのはどんなところ?」
『ここがバナックならば片方のゲートがどこにあるか見当つきますわ。ですが・・・残念ながらそのゲートはもう使えませんの』
またも期待はずれの言葉にガクッと肩を落とすクルス。
『ゲートの中心にあるオーブをよくご覧になって』
クルスがゲートに近寄ってオーブをじっくり見る。
「オーブってこの玉の事だよね。・・・あ、亀裂だ」
『鈍器で叩いてもキズなど付かない代物なのですが・・・割れてしまってはもう機能しませんわ』
「・・・」
どうにか脱出できないか考えていたクルスであったが、結局は地上に戻るには怪物をどうにかするしかなかった。
『そういえば、あなたはどうしてこちらに?』
クルスは白猫に幼馴染であるジムやメラニーと一緒にここに来た
(ジム達が助けを呼んでくれているはず。だったら安全なここで、待っていたほうがいいか・・・)
「だから、誰か助けに来るはずなんだ。それまでここで待ってる」
怪物は恐ろしいほどの力を持っているが、武器を持っている大人数人ならなんとか倒せるはずだ。
『なるほど。そういう事でしたか・・・。助けなど待つ必要はありません。あの階段を上がって、地上に戻りましょう』
「・・・はい?」
『ほら、さっさと行きますわよ』
突然過ぎて固まっているクルスをよそに、白猫が平然と階段に向かっていく。
「待ってくれ。今出ていったら怪物に――」
クルスの警告もお構いなしに、白猫は四本の足でトコトコと階段を上がって行った。いくら動きの素早い猫とは言え、怪物にやられるのは目に見えている。クルスは連れ戻そうと急いで白猫の後を追った。
階段を上がり、草原のような空間に顔だけ出したクルスは恐る恐る周囲を伺った。幸いなことに緑色の怪物の姿は見えない。どうやら近くにはいないようだ。
『何をボサッとしているのですか、あなた。出口まで案内してくださいな』
「何を言っているんだ。さっさと下に戻ろう」
少し前に立っている白猫が出口に案内しろと要求してくる。それにクルスは必死に抵抗する。
(こうなったら!)
クルスが白猫を抱き上げてでも連れ戻そうと前に出たその時、鉄の扉がある方向から奇声が響いた。クルスが声の方を見ると、あの金属の棒を持って緑色の怪物がこちらへ向かってきている。急いで抱き上げようと、クルスは白猫に手を伸ばした。
『
場違いな事を言われて、掴まえようとした手を止めて唖然とするクルス。白猫の顔が少し笑ったような顔をした。
『そんな顔なさらないで。問題ありませんわ』
白猫がクルスに優しい声をかけた。そして目を閉じ、ブツブツと何かを唱え始める。すると白猫とクルスの目の前に、白色の玉が姿を現した。徐々にその玉は真っ赤になり、そして炎に包まれていく。白猫が唱えるのを止め、目を開いたとき、炎の玉は勢いよく緑色の怪物に向けて飛んでいった。次の瞬間、怪物は真っ赤な炎に包まれた。
『これが魔法ですわ』
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