第5話 ジムとメラニー

-バナックの森 洞窟-


ジムとメラニーはクルスと別れたあと、急いで石の階段を駆け上がり、洞窟の中をひたすら走った。今も緑色の怪物から追われている恐怖がなくならない。喉も渇いているが水を飲む暇などない。


(早くしないとクルスがあの怪物に殺される・・・)


とうとう洞窟の外へ出られた。洞窟に入ってから数時間しか経っていないため、まだ太陽はそれほど傾いていない。

短時間と言えどもここまで全力で走ってきたため、疲労でジムの足が止まる。


「ジム君、止まらないで!」


メラニーは止まらずに走っていく。ジムは持っていたたいまつを地面に放り投げた。そして足でたいまつを蹴り火を消す。たいまつを持ってない分、走れるはずだ。


(これで走りやすいぞ)


ジムはふたたび走り出した。


ジムとメラニーは疲労困憊ひろうこんぱいになりながらもやっとの事で村の入口に到着した。


「ジム君は村長に知らせに行って! わたしはクルス君の家に行く!」


「わかった!おれの家にも知らせてくれ!」


その場で2人は別れて駆け出した。


クルスの家は日用品や雑貨などを扱う道具屋だ。クルスの父親のルークと兄のレオンが店を切り盛りしていた。クルスの母親は数年前に病気で亡くなっている。

走ってきたメラニーが店に入ると、クルスの妹のミアが店番をしていた。


「いらっしゃいませ・・・ってメラニーお姉ちゃん?」


突然店に入ってきて、カウンターに両手を付きゼイゼイと呼吸しているメラニーを見てミアが驚いている。


「メラニーちゃんどうしたの? クルスは?」


店の棚を整理していたクルスの父ルークがメラニーに話しかけた。


「クルスが怪物に襲われてるの。た、助けに行かないと!」


「怪物だって! どこで襲われたんだ?」


ルークとミアは怪物と聞いて驚いている。メラニーは呼吸が苦しいのも忘れて説明を続ける。


「バ、バナックの森の洞窟の中。隠し通路があってのその奥にいるの!」


「隠し通路だって!」


「洞窟の中の少し広くなったところで見つけたの。早くしないとクルスが・・・」


「わ、わかった。村長に知らせないと!」


「村長にはジム君が行ったよ」


「そうか。ジムは無事なのか。それならあと・・・衛兵に頼もう!」


メラニーの話を聞いてルークは急いで救出の準備を始める。


「ミア、レオンがもう少しで帰ってくるから、それまで店の事頼んだぞ」


「うん・・・お兄ちゃんは大丈夫だよね?」


コクンと頷いたミアだが、不安でいっぱいの表情だ。今にも泣きそうだが必死に我慢をしている。そんなミアにメラニーが元気付ける。


「ミアちゃん、クルスは大丈夫だよ」


「絶対にクルスを助けるから、そんな顔するんじゃない。行ってくる!」


ミアに別れを告げてルークは店を出た。メラニーもその後につづく。


「わたしの家とジム君の家に知らせに行ってくる!」


「わかった。村長に衛兵を出すよう頼んでくる」


メラニーはルークと別れ、自分の家とジムの家に向かうのだったね。


※※※


メラニーがクルスの家に着いたその時刻、ジムも村長の家に到着した。村長の家のドアをノックもせずに開き、大声で叫ぶ。


「村長さん、クルスが大変なんだ!」


テーブルに座って仕事をしていた村長と村長の息子が驚いてドアの方に顔を向けた。目の前にはひどく疲れきったジムが立っている。


「君はたしか定食屋の・・・そんなに慌ててどうしたのだ?」


「クルスが怪物に襲われてる!早くしないとやられる!助けに行かないと!」


「落ち着きたまえ。深呼吸をしなさい。それで・・・怪物だと。どこで襲われた?」


深呼吸をして少し落ち着いたジムは話を続けた。


「洞窟に・・・バナックの森の洞窟におれとクルスとメラニーの3人で宝物を探しに行ったんです。その途中で隠し通路を発見して・・・。」


「隠し通路だと! そんなものが・・・続けなさい」


「はい。その奥を進んでいくと、外でもないのに草原のようなところがあって・・・そこで大きな金属の棒を持った緑色の怪物がいて、そいつに襲われたんです!」


「緑色・・・もしやゴブリン?・・・いや、それで?」


「怪物から逃げているときに、クルスだけ逃げ遅れてしまって・・・だから早く助けに行かないと!」


村長のソルトはジムの話を聞いて、これからどうするか考えていた。


(人を集めなくては、それも戦える者を。それにもしゴブリンであるなら、このあたりに魔物がいることになる・・・いずれにしろ領主様に報告しなくては・・・)


「ラル、詰所に行って衛兵を呼んできなさい。あと、狩人のウォーレンも家にいたら呼んでくれ。」


先ほどまで仕事の手伝いをしていた息子のラルに伝える。ラルは頷くと家を出ていった。ラルを見送ったソルトはジムに視線を戻す。


「私も出る準備をするから、君はここに座っていなさい。何か飲み物を持ってこさせよう」


ジムを近くの椅子に座らせ、妻に飲み物をお願いした。ソルトは2階にある自室へ行き、自分の剣を手に取った。


(腕が痛むなど、そうも言ってられないな)


ソルトは若い頃、冒険者として活躍していた。しかし、ある時腕に怪我を負ってしまった。それが原因で冒険者を辞め、故郷のソルト村に戻ってきたのだ。その後、父親である元村長の後を継いで、今の村長の地位に就いている。


(魔物だとすれば、大騒ぎになる・・・)


この先忙しくなるだろうとソルトはため息をついたのだった。



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