第2話 ネギトロ、納豆、味海苔巻きにて。 3

 そうそう、ばくだんと言えばもうひとつ用意しておくと心強いアイテムがある。あたしは卓上の飯友めしともBOX(ふりかけとかが無秩序に突っ込んである箱があるのだ)から黒い大き目の付箋みたいなそれを取り出した。


 味海苔だ。


 本当は生海苔のほうが美味しいんだけど生海苔は普段の使い勝手が悪いので買い置きしていない。安易に揉んでふりかけたりとっさにご飯に巻いて食べたりと味海苔の利便性は圧倒的なのだから仕方ない。

 封を切って味海苔を一枚手に取り、その上にネギトロ納豆をのせてくるりと巻けばばくだん海苔巻き一丁上がり。味海苔の大きさならちょうどひと口サイズになるのも魅力的だし、口に運ぶごとにネバネバが糸を引かないので食べやすい。

 大きく口を開けて頬張ると、味海苔の香ばしさと旨味が加算された更なる混沌があたしを襲う。これはいけない、早く清浄なチューハイで洗い流さなくては!

 ネギトロ納豆を味海苔で巻いては口へ放り込んでチューハイで流し込む。流し込んでは巻いて、巻いては食べて流し込み。


 そこそこの量があったネギトロ納豆はあっという間に無くなり、チューハイも既に三缶目に突入した。ほろ酔いどころか目的通りすっかり出来上がっている。冷蔵庫を開ければ、あるいは飯友BOXを漁れば次のアテは用意できるけれども、あたしは最後に残された理性でそれをぐっと堪える。

 そろそろエリちゃんがたこ焼きを持って我が家へ到着する頃合いだ。


 あたしはマヨネーズやドロソース、七味などをテーブルに並べてチューハイをちびちび舐めながら彼女を待つ。たこ焼きには既に十分な味付けがされているかも知れないけれど、味変はご飯の時間を豊かにするし濃い目のほうがお酒には合うんだからこれでいいのだ。


 そうこうしているうちに玄関の鍵が開いた音がした。エリちゃんが合鍵で開けたんだろう。静かな足音で真っ直ぐキッチンへ向かってくると、彼女はいつものクールなハスキーボイスを響かせた。


「待たせたな」


「ふぁあ、待ってたよたこ焼きぃ!」


 あたしの感極まった声に眉を寄せるエリちゃん。


「来客に対する第一声がそれか、この酔っ払いめ」


「えへへへ」


 あたしが誤魔化すように薄ら笑みを浮かべると彼女は諦めたように溜息を吐く。


「可愛いつもりか」


「え、可愛いでしょ」


「まあ嫌いじゃない」


 テーブルの真ん中にたこ焼きを置くと、そのままテーブル越しにフレンチキス。濃厚な煙草の残り香に顔を顰めるあたし。こいつめ、家に入る前にたっぷり吸ってきたな。

 けれども顔を顰めたのは彼女も同じだった。


「ぐあ……おま、納豆食べてたな……」


「ああ食べてたさ! ちょー美味しかったね!!」


「ぐうう……」


 ドヤるあたしをしり目に洗面所へ向かう彼女。ふはははは、毎度毎度煙草臭いキスをされるあたしの気持ちがちょっとはわかったか。

 ともあれ彼女がきれいにお口をゆすいでるあいだにたこ焼きのほうを用意しよう。勝手に包装紙を剥いてたこ焼きをお皿に移すと電子レンジに突っ込んで温める。すぐに粉ものとソースの良い香りがキッチンを満たし始めた。


 晩御飯は始まったばかり。ああ、今日もご飯とお酒が楽しい。



~おしまい~

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