第9話 開始

小夜子からのラインの返信は次のようなものだった。


「すごいじゃない。私の収入より上じゃない。でも体調にはくれぐれも気をつけてね。」


僕はそれだけで充分だった。自分が弱っている時とはいえ、やはり小夜子のことを好きになってしまったのだった。


収入があるのは来月だ。それまで楽しみだ。両親には通帳に振り込まれてから報告しよう。今の時点では話しづらかった。心の病気とは恋人、友人、そして親子の仲まで無慈悲に引き裂くものだった。


今の自分には小夜子しかいない。自分自身のためもあるが小夜子に認めてもらうために健康管理とクラウドワークスでプログラミングをするしかなかった。


ラインをするのも小夜子だけだった。会話をするのも小夜子だけ。両親とは溝がある。

地元の友人も誰が残っているかわからなかった。自分で調べる気もなかった。


PCに向かってプログラミングをしている時は嫌なことは思い出さなかった。不思議なことに東京の一流企業時代のことも思い出さなかった。僕はもともとテクノロジーが好きなのだった。クラウドワークスなら嫌な上司もいない。睡眠時間も会社と違って確保できる。これは僕にとって天職だなと実感した。


そして小夜子と会える通院の日を迎えた。

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帰郷物語 @yukinokizuna

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