整然商人シンバ 〜ようこそカザミド冒険団!〜

雨蕗空何(あまぶき・くうか)

整然商人はかく語る

「ええ、この商団に入る前、確かに僕はカザミド冒険団に所属していました。

 もう二年ほど前になるでしょうか」


 都市の商人ギルド待合室。

 もじゃっとした金髪とそばかす顔の青年、整然商人シンバは、懐かしそうに目を細めた。


「当時の僕はお金がなくて、そのうえ自分の適性も分かってなかったので、ひとまず冒険者で食いぶちをつなごうとしたんですね。

 本来ならもっとまっとうな職につくことを考えるべきなんでしょうけど、冒険者はロマンがありましたし、職につくとしがらみというか、ええ、年頃というか、反抗期ですね。

 昔から几帳面と言われていて、まあ悪い意味でも言われましたし、だから型にはまった生き方はしてやらないぞってなってしまったんです」


 苦笑をひとつ。


「当然、所属させてもらえる冒険団なんて全然見つかりませんでした。

 なんの技能も腕っぷしもないわけですから、所属させる方がどうかしてます。

 それで途方に暮れていたところを、たまたまウェザリオくんが見つけてくれて」


 手元のカバンを、テーブルに置いてみせた。


「ちょうど、このくらいの大きさのカバンを持っていたんです。

 冒険者として必要そうだと思ったものを、手当たり次第に詰め込んで。

 それを見て、『それだけ雑多な荷物をそのサイズのカバンにきちんと収められるのは、整頓の才能があるんだね』って言ってくれたんです」


 シンバははにかんだ。


「それで、ウェザリオくんがみんなに僕を紹介してくれて、カザミド冒険団に。

 それでやっているうちに、自分は思ったより物の整理というか、どこに何が収まるのか感覚的に見分ける能力が優れているんだなって気づいたんです。

 収集クエストでいかにたくさんのアイテムを運べるか工夫したり、魔物を罠にかけるときに、目測でどのくらいの寸法が必要かとか、そういうので活躍させてもらいました」


 思い出しながら、シンバの顔はほころんだ。


「カザミド冒険団は入れ替わりの多い冒険団ですから、当時とはだいぶ顔ぶれが違うと思います。

 そのときからいたのは、ウェザリオくんとシャムーシェさんとジュードさんと……

 ブリッツさんはもういないんですよね。会ったことは? そうですか」


 ゆったりと、シンバは語り続ける。


「それで僕も、この通り途中抜けで。

 クエストの縁で知り合ったのが今の商店のボスで、僕の能力や人となりを気に入ってくれたんです。

 ええ、今は商品輸送をいかにコンパクトにして効率よくやれるかとか、帳簿だったりやたらかさばるものをどう整理すれば見やすいかとか、そういうのを日々改善してます」


 シンバの目が、少しだけさみしそうに、横に流れた。


「葛藤はありましたけどね。カザミド冒険団に愛着がありましたから。

 でもあの冒険団はそういう方針で、半端者をこころよく受け入れて、それでもっといい環境が見つかったら、気持ちよく送り出すんです。

 だから僕も、その流儀に沿って……

 まあ決め手は、個人的な理由なんですけどね」


 照れくさそうに、左手でほおをかいて。

 その手の薬指に、指輪。


「僕も久しぶりにみんなと会いましたけど、見るたびに個性豊かになっていますね。

 人腕フクロウの方なんて、最初に紹介されたとき笑っちゃいましたもん」


 笑う。ほがらかに。

 そしてその笑顔は、いつくしむように柔らかくなって。


「もう僕は、あそこの所属ではないですけれど。

 それでも僕にとって、故郷のひとつのような気分なんです。

 なので、あそこの流儀にのっとって、このセリフを言わせてください」


 片手をこちらに差し出して。

 整然商人シンバは、高らかに告げた。


「ようこそ、カザミド冒険団へ。

 そこは半端な者たちが集まる、最高に充実した集団パーティです」

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