消えそうで消し去れない恋と友情の輝き

『流れ星が消えないうちに』橋本紡(新潮文庫)  


 極々薄いレモン水にも似た味わいと言えるだろうか。人の死に対する思いが綴られているにも関わらずどんよりとした重みがない。まるでそれが浸透水のごとく読み手に染み渡っていく。


 悪く言えば退屈。しかし、この退屈加減がまた本書の味わいでもある気がする。


 淡々と音を奏でるかに物語は進んで行く。ドラマは確かにあるが、愕然と目を剝く、さらには寝る前に読んで興奮で寝付けないなどということもない。とにかく気が付くと次のページを捲っている感じだ。


 

 二十歳になった奈緒子は半年前から自宅の玄関に布団を敷いて寝るようになった。両親と妹は父親の転勤の都合で遠い佐賀で暮らしているため奈緒子は一人暮らし。そんな彼女をここで寝させるようになった理由が恋人として付き合っていた加地の死でもあった。


 一人で海外に行って急逝した加地のことをいつまでも忘れられず苦しんでもいた。立ち止まったまま生活を続けていく奈緒子は、やはり加地のことを忘れずにいる現在の恋人、巧との交流で徐々に前を向き始める。


 本書はそんな奈緒子と巧とが交互に語る一人称スタイルとなっている。女性、男性と、考え方や見方の違いや苦悩などがよく表現されている。大切な人を失くしたショックは当然ながら誰にでもあるし、簡単に割り切れるものではない。


 それをどう乗り越えていくのか、恋愛小説でもありながら少しばかり背中を押す応援歌としても捉えることが出来るのではないか。突然、一人で帰って来た父親のその後も気になるところではあるが、その父親の存在も本書では良い味付けにもなっている。


 重さの中に心地よさもある。

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