人間の本質を押し隠して歩く男女の長き道のり

『白夜行』東野圭吾(集英社文庫)  


 片手で持てばその手応えだけで長い話がひしひしと伝わって来る。何日掛かるのか。ページを開く前から読み終える時間までもが遠くかすむようだ。しかし、これがいざ読み始めてしまえば、抱いていた考えが杞憂であることがわかる。これが東野圭吾のマジックと言ってもよい。


 元々は雑誌連載時に個々の短編だったものを結び付けて長編にしたというのだが、読んでいる限りは全く違和感もなく、ただの場面違いにしか感じられない。この手のミステリーにはつきものの手法だろう。


 本も分厚ければ描いた時間も二十年近くに及ぶ。幼女だったのが大人の女性に。事件を追う刑事も定年になる。月日の経過とは過ぎてみれば読み進める本と同じなのかもしれない。


 大阪にある廃墟のビルで質屋を経営する桐原洋介が死体で発見された。凶器は見つからず扉は外から簡単に開かないようブロックなどが置かれていた。しかし、そのビルはよく子供たちがダクトの中を徘徊して遊んでいたため、その死体のある部屋に迷い出た子供が偶然見つけた大騒ぎになった。


 死んだ夫の妻である弥生子、そして使用人の松浦などに疑いが掛けられたものの決め手がない。刑事である笹垣は何か見落としていることがあるのではと、事件を追いながら被害者の息子の桐原亮司と容疑者の娘の西本雪穂の存在に関心を寄せていく。だが結局事件は迷宮入りしてしまう。


 犯人に届きそうで届かない。それどころかどんどん深みに入って行ってしまう。そんなもどかしさが本書にはあって、一緒に事件を追うようなところも面白い点であり、接触もない二人の関係性に思わず唸るはずだ。

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