憧れだった人の背中が努力のたびに近付いていく

『ボックス!(上)』百田尚樹(講談社文庫)  


 スッと入って行け、なおかつ情景が良く浮かぶせいもあって、読むペースは過去一、二を争う感じで読み勧めることが出来ます。


 難解な話でもなく日常を取り上げているからかもしれませんが、百田尚樹の文章はとにかく読みやすい。プロだから当たり前だと言われでしょう。ただ、プロであっても軟な読者は寄せ付けない作家も存在しているのは確かです。


 好みの問題もあるのでしょうが、この小説は人に強く勧めたくなる一冊です。もっとも上下巻なので二冊にはなります。


 学力優秀ながらいじめられっ子だった木樽優紀の幼馴染は運動に関しては特別とも言える神経を持った鏑矢義平。その二人が大阪の恵美寿高校で再会する。小学生三年から空手、その後プロのジムでボクシングを習った鏑矢は、喧嘩もボクシングも圧倒的な強さを見せ、いわば木樽の憧れでもあった。


 やがてデートの際に屈辱な思いをさせられた木樽は鏑矢からの勧めもあって同じ高校のボクシング部に入部する。そこで改めて知ったのは鏑矢の凄さだった。


 特にただ物じゃないと思わせるのが最初の電車の中での下りでしょう。この辺りは読みながら知らぬうちに興奮しているのがわかります。懸垂が一回しか出来なかった特進クラスの木樽がその後、どう鏑矢の背中を追い続けていくのか、鏑矢との友情を含めてこの辺りの彼の頑張りも見どころの一つです。


 さらに高校ボクシングのルールなど、思わず唸ってしまう事項も多く、ボクシングはどうもと思われる方も一読すれば多少考えも変わるのではないでしょうか。頑張り屋の木樽から勇気を分けてもらった人も多いはず。

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