改めて教えられる。人の運命という難しさ

『君の膵臓をたべたい』住野よる(双葉文庫)  


 衝撃なのはタイトルではないだろうか。一歩間違えば得体の知れない変人の話にも受け取られかねない。


 しかし、これがなぜか無性に興味をそそる。短いタイトルでいかに内容を伝え、人の目を奪うか。改めてタイトルの重要性にも気付かされる一冊でもある。話は誰にも好かれる活発な女の子と、存在感もまるでない孤立した男の子のやり取り。


 面白いのはこの男の子の名前がいつまで経っても明かされないこと。つまりはそれだけ人として皆に周知されていないと表れなのだろうが、実際こんな事態ならば本人はいたたまれないのではないか。


 とは言えこれも本人納得のことなのだから、孤立というよりも下手な人間よりもメンタルは強い。


 盲腸の手術の抜糸をするため病院を訪れていた男子高校生はソファーの上に置かれた一冊の本を手にすることになる。元々本好きな彼は「共病文庫」とマジックで手書きされた本のページを捲る。


 ただ、内容が内容だっただけに彼は本を閉じた。ちょうどそんな時だった。その本を書いた女性に声を掛けられる。それがクラスメイトで同じ図書委員の山内桜良だった。思わぬ形で秘密を知られた彼女はその後、ことあるごとに彼と行動を共にし、クラスの間にもうわさが広がっていく。


 些細な切っ掛けからの恋愛話ととらえることも出来るだろうが、互いの性格が真逆なこともあって距離は縮まらない。その寄らず離れずの関係がまたどことなく可笑しい。


 運命を背負った彼女にさらなる運命が待ち受けているとも知らず、二人は同じように時間を過ごしていく。


 惨いという一言が似合う展開に読者は衝撃を受けるはずだ。

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