第39話:友香ちゃんは予知能力者?

〈小豆視点〉

***


 家に帰ってしばらくしたら、銀からメッセージが来た。


『体調崩して早退したって聞いたけど大丈夫か?』


 心配……してくれてるんだ。

 胸がキュンとした。


『うん大丈夫。もう家にいるし』

『そっか。無理すんなよ』

『ありがと』


 銀に心配かけたくない。

 だからシンプルに返しとけばいいよね。


 それからしばらく間が空いてから、やけに長文のメッセージが届いた。


『本当は直接顔を合わせて話をしたいと思ってたんだけど……小豆が体調崩して帰ったから、メッセージで伝えます。

弁当作ってくれてありがとう。めちゃくちゃ旨かった!

なのに周りに誤解されるなんて言って、小豆を傷つけたかもなって心配してる。ごめん。

塾のスタッフが特定の生徒さんと特に仲良くしてるってことで、他の生徒さんに誤解されたら小豆にも塾にも迷惑かけるかもって心配したんだ。

でも他の生徒さんに誤解されないように、気をつけたらいいんだって気づいた。もし良かったら、時々は作ってくれたら嬉しい。

思ってることを文字で伝えるのって難しいな。また顔を合わせた時にちゃんと話すよ。じゃあまた』


 ──え?


 銀……あたしを心配してくれてるんだ。

 竹富サンや奄美先生に知られたくないとかじゃないんだ。


 ……よかった。


 あ、そうだ。友香ちゃんに連絡しとこう。

 心配かけたからね。


 友香ちゃんにメッセージ送ったら、電話がかかってきた。


『小豆ちゃん、よかったですね』

「ありがと。心配かけてごめんね」

『いえいえ。私のことは気にしないでください。でもほら……』

「ん?」

『やっぱり銀ちゃん先生は、小豆ちゃんのことを好きでしょ?』

「ややや、なに言ってんの? 違うって。これは単に銀があたしに気を遣ってるだけで……」

『うふ』

「なに友香ちゃん。そのうふは?」


 イタズラっぽく笑う友香ちゃんの顔が目に浮かぶ。

 やめてよ。恥ずいから。


『小豆ちゃん。今から銀ちゃん先生に電話して、告白したらどうですか?』

「……え? むりぃ〜っ!」

『でも今行動を起こさないと、明日竹富先生が既成事実を作っちゃうかもですよ?』

「それはわかってるけど……」


 竹富サンのことを思うと胸がズキンとした。

 だけどあたしには、そんな勇気は起きない。


「やっぱ無理だって!」

『そんなこと言わずに頑張りましょう!』

「いや、むりむりむりっ! ぜーったいに無理っ!」

『そうですか……』


 友香ちゃんは、きっと銀はあたしを好きだって言ってくれるけど。

 だけどあたしには、イマイチ自信が持てない。


 こくってハッキリ断られたら、気まずくてあたし塾にいられなくなるよ。それはヤダ。

 だから……もしも銀が竹富サンとできちゃうなら、それは運命と思って受け入れるしかない。

 もしそうなっても、あたしは塾をやめなくていいもんね。


 そう言ったら、友香ちゃんは残念そうにため息をついた。

 あたしは「また月曜日にね」と言って電話を切った。



***


 翌日の日曜日。

 その日は朝から一日中ずっと悶々してた。


 銀と竹富サン。

 もしもできちゃったら、運命と思って受け入れる。


 そんなふうに割り切ろうとしてるけれど。

 そんな簡単に割り切れるもんでもない。

 胸がキュッキュッと痛くなる。


 銀は今なにしてるんだろ。

 竹富サンは今夜に備えて、めっちゃ気合い入れてるんだろうか。


 なんだよあたし。

 あたしってもっとサバサバしたヤツかと思ってた。

 ウジウジ考えてばかりで、全然イケてないよね。


 ──ああっ、もうっ!


 悶々しすぎて死ぬ。

 だめだこれ。


 そんな一日を過ごした夕方。

 友香ちゃんから突然メッセージが来た。


『今何してますか? 家にいますか?』

『いるよ。なにしてるって別にフツー』


 嘘だ。フツーなんかじゃない。

 だけどそれしか答えれないじゃん。


『今ちょっと出れますか?』


 ──ん? どゆこと?


『どしたん?』

『今小豆ちゃんの家の前にいます』


 …………え?


『待ってるから出てきてくださいね』


 ちょちょちょ、待ってよ!

 なんで?


 慌てて玄関から外に出た。

 そしたら友香ちゃんがニッコリ笑って立ってた。


「ハローです」

「ハローじゃないって友香ちゃん。どしたの?」

「小豆ちゃん。やっぱり銀ちゃん先生に想いを告げましょう」

「なんで?」

「あのですね。私は未来を予知できるのです」

「は……?」


 なにそれ? エスパー?

 いや友香ちゃんとは長い付き合いだけど、そんな話初めて聞いたし。


「このままにしておいたら、銀ちゃん先生は今夜竹富先生に食べられちゃいます」


 食べられちゃう?

 えっと……真面目な友香ちゃんがそんなこと言う?


「でも小豆ちゃんがちゃんと想いを告白したら、その未来を変えられるのです。それが私の予知です。きっとそうなります。」

「いやいやいや。友香ちゃん、予知能力なんてないよね?」

「いえ、あります……たぶん」

「段々弱気になってない?」

「そ、そんなことないです……」


 ──あ。これ、友香ちゃんの気遣いだ。


 きっとあたしに自信を持たせようとしてるんだ。

 真面目な友香ちゃんだから、嘘を突き通せないんだよね。


「ありがとね友香ちゃん」


 心遣いはすっごく嬉しい。

 それに友香ちゃんの予知は、竹富サンの部分はきっと当たるんだろなぁ。あたしの話は別として。


「小豆ちゃん……じゃあ銀ちゃん先生に……」

「ううん。だって飲み会は今夜だよ? 今から銀に告るなんて、そんなチャンスはないし」

「電話やメッセージだとうまく伝えるの、難しいですもんね」

「だよね。だから仕方ない」


 会えばちゃんと告れるのかって言うとそうでもない。だけど友香ちゃんの話に乗っかっとく。


「あのですね小豆ちゃん。これ見てください」

「え……? なに?」


 友香ちゃんがスマホの画面をこっち向けたから覗き込んだ。


 これは──?

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