第40話:友香ちゃんとのメッセージ
今夜は俺の誕生日を祝ってくれる飲み会。
竹富が予約してくれたもつ鍋屋に、夜の六時に現地集合だ。
「ひゃっはー!」……じゃなくて「やっはろー」って店だったな。
酒は今まで正月にちょっと飲んだことはあるけど、本格的に飲むのは初めて。
だから楽しみでもあり不安でもある。
竹富がガッツリ飲ませるようなこと言ってたけど、大丈夫かな?
ま、大丈夫だろ。体力には自信あるし。
今は五時半ちょっと前。やるき館の近くにある公園に一人でいる。
待ち合わせは五時半でよかったよな?
念のために確認しとこうか。
うん、間違いない。
それにしても友香ちゃんって真面目で勉強熱心だよなぁ。
昨日作った数学の解説資料。
早めに欲しいだなんてメッセージを送ってきた。
月曜日に渡すよって返信したら、『日曜日にやるき館の近くまで買い物に行くから、そのついでにもらっていいですか?』だって。
日曜の夜にしっかり勉強したいからだなんて、どんだけ熱心なんだよ。
ちょうど俺も飲み会で出てくるから、その前に待ち合わせすることにした。
『5時半にやるき館の近くの公園で待ち合わせしよう』ってメッセージを友香ちゃんに送った。
それにしても俺が飲み会だってこと、友香ちゃんはよく知ってたなぁ。
そろそろ5時半だな。
友香ちゃんはもう来るかな?
「銀次さん」
あ、来た来た。
後ろから声が聞こえた。
──え? 銀次……さん?
「あれっ? なんで小豆が?」
「今まで友香ちゃんと一緒にいたんだけどさ。急に用事ができたって帰ったんだ。だからあたしが代わりに資料を取りに来た」
「そうなんだ」
なんだ。小豆も一緒に買い物に来てたのか。
「ほらこれ。解説資料」
「うん。ありがと」
資料を受け取った小豆は、なぜかモジモジしてる。
表情も硬い。
無言で横向いてる。
えっと……機嫌が悪いのかな?
「小豆もいるってわかってたら、お前の分も持ってきたのに」
「あ、うん。急に一緒に出かけることになったんだ」
「あ、そっか」
会話はちゃんとしてるし、機嫌が悪いわけじゃなさそうだ。ホッとした。
「あのさ小豆。メッセージした件だけど。ちゃんと顔見て謝らないといけないと思ってたんだ。好意を
「うん。銀……次さんの気持ちはメッセージで充分伝わったから大丈夫。あたしの方こそ勘違いして、勝手に怒ってごめん」
やっぱ怒ってたんだ。ヤバかった。
早めにLINEで気持ちを伝えてよかった。
「あ、あのさ銀次さん」
「ん?」
「今日、これから飲み会なんだよね?」
「あ、うん。そうだよ」
「その前に銀次さんにちょっと伝えたいことがあって」
「おう、なんだ?」
「えっと……あの……その……飲み過ぎには気をつけて」
「おう。ありがとう」
俺の健康を気遣ってくれてるのか?
「あ、いや。あたしが言いたいのはそうじゃなくて……」
「ん? なに?」
「あのさ。ほら。……食べ過ぎにも気をつけて」
「お、おう。わかった」
やっぱ俺の身体を心配してくれてるんだ。
ありがたいな。
「じゃあ、あたしこれで帰るよっ」
小豆があたふたした感じで、突然くるんと振り返って向こうを向いた。
なんだ?
伝えたいことってそれか?
その割にはなんか大げさな感じだな。
「うん。ありがとうな」
歩き始めた小豆の背中に声をかけた。
すると、なぜか小豆はピタッと歩みをとめた。
なんか肩が大きく上下してる。
深呼吸してるみたいだ。
どうしたんだろ?
「あ、あのさっ銀次さん!」
再び振り向いた小豆のショートヘアが、くるりと弧を描いた。
スカートも巻くように揺れて、まるで映画のヒロインのワンシーンみたいだ。
やっぱコイツ、すっげえ可愛いな。
だけど顔は真っ赤で、くりっとした瞳には涙がにじんでるように見える。
「どうした?」
ホントにどうしたんだよ今日の小豆は?
かなり挙動不審だぞ。
「あのさっ、銀次さん! あ、あたしっ……銀次さんのことが大好きだ!」
──え?
まさか。
小豆が俺を好きかもっていうのは思っていたけど、こんなにいきなり告白?
あまりに突然のことで、身体が固まって声が出ない。
そんな俺を見て、小豆は焦りの表情を浮かべてる。
「今まであたし、銀次さんには酷いこと言ったもんね。きっとウザいヤツだと思われてるよね」
いや違う。違うんだよ小豆。
確かに最初はそうだったけど、今は俺だって小豆のことがす……
「あたしなんかバカだし生意気だしギャルだし。ちゃんとした大学生の銀次さんを好きになっちゃいけないんだって思った。言うべきじゃないよねって思った」
小豆は今まで押し込めてた感情を一気に吐き出すみたいに、早口でまくしたてる。
「でもごめんね。あたしバカだから、こうして気持ちをぶつけることしか思いつかなったんだよ」
俺の言葉を待たずに、次から次へと──
「これが最後のチャンスだって思ったら、我慢できなかった」
「でも銀次さんが好きで。……大好きになっちゃったんだよ。仕方ないんだよっ」
「ホントにごめんね、こんなバカで」
バカじゃない。
小豆はバカなんかじゃない。
そうやってストレートに気持ちをぶつけてくれて俺は嬉しい。
そして愛おしい。
今ならはっきりとわかる。
俺は──小豆が好きだ。
だったら俺も、ちゃんとストレートに気持ちを伝えなきゃ。
周りがどう思うとか、バイト先に迷惑かけるとか。
正直、そんなことはどうでもいい。
俺は、
小豆に、
俺の気持ちを伝えたい。
ただそう思う。
「あのさ小豆。俺……」
「あ、いいんだよっ。返事なんか期待してないから。なにも答えなくていいから」
「いやあの、俺……」
「気持ちを伝えられただけで満足。銀次さんも困るだろうし、もう忘れて。あたしも忘れるから」
「小豆……」
「せっかくこれから楽しい飲み会なのに、こんなこと言ってごめんね。ゆっくり飲み会楽しんで来てよ。ほら、可愛い竹富サンもいるしさ」
──あ。そっか。
小豆と竹富がいがみあってるのは嫉妬のせいだっていう奄美さんの言葉を思い出した。
飲み会の前に伝えときたいってそういうことか。
飲み会で俺と竹富が仲良くするのを不安に思ったんだよな。
それにしても小豆ってヤツは、こんな言い方しかできないなんて。
しかも段々と声が震えて小さくなってて、無理してることがありありとわかる。
俺もたいがい不器用だけど、こいつホントに不器用だな。
でも……そんなとこも可愛い。
「じゃあね銀次さん。今度はホントに帰るから!」
「ちょっと待て小豆。お前、自分の言いたいことだけ言って帰るつもりか?」
「あ……ご、ごめん。気を悪くさせちゃった?」
「違う。気を悪くなんかしてない。俺の言いたいこともちゃんと聞けっていいたいだけだよ」
「銀次さんの言いたいこと?」
「ああ、そうだ」
ああっ、くそっ!
心臓がバクバクめっちゃ苦しい。
でもちゃんと言いたいことを伝えなきゃだめだ。
がんばれ俺っ!
「あのさ小豆。よく聞いてくれ」
「う、うん……」
「俺は──小豆が大好きだ」
「え?」
小豆は動きがぴたりと止まった。
そして次の瞬間。
彼女の目から、涙がブワっとあふれ出した。
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