第31話:奄美さんが衝撃発言

***


 結局俺が小豆にわからないところを教えて、アイツも納得して帰って行ったけど。

 竹富はずっと小豆をジト目で睨んでたし。

 ホントあいつらの仲の悪さはなんとかしてほしいよ。


「はぁ~っ……」

「どうしたの佐渡君。大きなため息なんかついちゃって」

「あ、奄美さん。お疲れ様です」


 気がつけばもうこんな時間か。

 講師準備室に戻って事務仕事をしてたら、結構時間が経ってた。


 今日は用事があるからって竹富も先に帰っちゃったし。

 社員さん以外で残ってるのは俺と奄美さんだけか。


「なにか悩みがあるなら、お姉さんに言ってごらん?」


 腕組みをしてニコリと笑ってウインク。

 なに、この素敵な生き物は?

 バブみに溢れてるんだけど。


「えっとですね……竹富と小豆がしょっちゅういがみあってるんですよね。どうしたらいいかと思って……」

「竹富さんと香川さんが?」

「はい。俺の前でなんか睨み合いしたり、仲悪いんすよ」

「そりゃまあね。二人とも佐渡君を好きだから、お互いに嫉妬してるんでしょうね」

「……え?」

「……え?」


 奄美さんは思いっきりきょとん顔してる。

 たぶん俺も、自分史上最大のきょとん顔をしてる。


「えっと……冗談ですよね?」

「えっと……佐渡君、もしかして気づいてないの?」

「もしかしてマジで言ってます?」

「もしかしなくても真剣に言ってる」


 …………なんですと?


 奄美さんが言う『二人とも佐渡君を好き』って、竹富と小豆が俺のことを好きってことだよな?

 いや、奄美さんの言葉からすると、それ以外の意味は考えられない。


 奄美さん、めっちゃマジ顔してる。

 いつものお茶目なからかいじゃない。


「ええーっっっ!? いやいやいや! それはないでしょ! やだなぁ奄美さん。いったい何を言い出すんですか? そんなはずないでしょ!」

「なに言ってるのよ。竹富さんは明らかに佐渡君にベタベタくっついて行ってるし、香川さんは……」


 小豆は別にベタベタしてきてないよな?


「今までの彼女は周りにすごく無関心だったからね」

「そう……なんですか?」

「それが佐渡君には色々と絡んでるし、それに──階段落下をカッコよく受け止められたり、塾やめるのを駆けつけて助けられたりしたら、そりゃ女の子ならキュンとするでしょ」

「いや、相手はあの気の強いギャルですよ?」

「ギャルって……あはは」

「なにがおかしいんですか?」

「いやごめん。佐渡君ってホント、女の子を見る目がないね」


 悪かったですね。

 そりゃ俺は女の子と触れ合う機会なんて今まで皆無だったから、女の子のことなんてまったくわからん。


「香川さんは見た目はあんなだけどね。ホントは素直だし真面目だし純情なのよね。友達とのやり取り見ててもわかるし。なんか無理して派手な格好してるって感じ」

「そ……そうなんですか?」


 そう言われたら、そんな気がしないでもない。

 俺は今まで小豆の表面しか見てこなかったってことか?


「佐渡君はホントに、二人の好意にまったく気づいてなかったの?」

「いや、あの……そう言われたら、なくもないかも……」

「でしょ」


 確かに、もしかしたら……って思いはあった。

 だけど、そんなはずはないって思いもあった。


 男子って、ちょっと女の子が愛想良くしてくれると、『この子俺に気があるんじゃね?』なんて勘違いしがちな動物だ。


 事実今までそんな勘違いをして、失意に沈んだ男を山ほど見てきた。

 ……あ、うん。もちろん友達の話であって、俺の話じゃないぞ。違うんだからな。


 だから俺はそんな勘違いをしないように気をつけてきたし、ましてや竹富や小豆みたいな気の強い女子が俺に好意を持つなんて、あり得ないと思い込んでた。


 でも──


「奄美さんから見て、そう見える……ってことですよね?」

「そうよ。……ということで佐渡君。改めて訊くけど、竹富さんか香川さんのどちらかが好きとかないの?」

「ぶふぉっ……」


 吹き出した。

 なんてことを言うんだ、この人は。


「いや、特にないです」

「でも二人とも可愛いよね?」

「んんん……」


 可愛い?

 あの二人が?


 確かに最近、小豆も竹富も可愛いなと思うことはちょくちょくある。それは認める。

 

 だけど好きかって訊かれたら……


「やっぱないでしょ」

「そっか……うふふ」

「なんですかその笑い? 信用してないんですか?」

「そうね。人の恋心なんて、いつどうなるかわからないからね」

「それはそうなんでしょうけど……」


 いや、ないな。……たぶん。


「それにしても、竹富や小豆が俺を好きだなんて、ホントにそうなんですかね? 俺がそんなにモテるはずがないですよ。イケメンでもないし」

「そうかな? 佐渡君は充分素敵だと思うよ。顔も可愛いし」

「ぶふぉっ!!」


 吹いた!

 思いっきり吹いた!

 って言うか、人生でマックス吹いた!


 奄美さんからそんなことを言われるなんて。


「冗談……ですよね?」

「ホントだよ」


 思わず奄美さんの顔をじっと見る。

 ニコニコしてる。

 そう言ってもらえてめっちゃ嬉しい。


「だから佐渡君が早く彼女を作っちゃえばいいのよね。香川さんか竹富さんか、もしくは他の誰か」


 他の誰か……

 思わず奄美さんの顔を見つめてしまう。


 ……あ。

 奄美さん。ニヤニヤしながら俺をじっと見ないでください。


「そうなったら解決するよね、うふふ」

「そう言われても……」

「まあ佐渡君が彼女を作った段階で、修羅場にはなるでしょうけど」

「あ、いやそれは困りますよ」

「佐渡君。男は修羅場を乗り越えて一人前になるのだ!」


 ──なるのだ……って。


 ガッツポーズしてるしキリッとした顔してるし。

 語尾と見た目はすっごく可愛いんだけど……


「いやいやいや! そんなのヤですよ」

「半分冗談よ。うふふ」


 うふふって。

 つまり半分は本気ってことなんですね……

 言ってることが怖すぎる。


「修羅場を避けるためには、とにかく今はお互いの嫉妬心を刺激しないように、佐渡君が気をつけるしかないわね」

「そう……ですね」


 そもそも竹富と小豆がホントに俺を好きなのか、まだ確信が持てない。

 だけど奄美さんの言うとおりだとしたら、とにかく当面はあの二人がいがみ合わないように気をつけなきゃいけない。


 ──そう思った。

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