クエスト:ワメキドリの焼き鳥を納品せよ 〜ようこそカザミド冒険団!〜

雨蕗空何(あまぶき・くうか)

ある日のクエストの光景

『北の森にワメキドリという鳥がいましてですね、名前の通りギャーギャーわめいてやかましいのだけど、その肉は絶品ザマス。

 是非とも焼き鳥にして持ってきてほしいザマス』


 そんな依頼を受けたのが、昨日のこと。

 そして今日、昼過ぎ、森の中。


「おいこらてめーらオイラを引っ捕まえてどうしようってんだ!?

 やめろ!! オイラはワメキドリじゃねーよ!?」


 人腕フクロウのクロフ。

 右腕だけが人間で、あとの体はフクロウの人物。

 カザミド冒険団に所属する冒険者だが、今その同じ冒険団のメンバーに取り押さえられていた。


「仕方ないじゃんクロフ。ワメキドリ捕まんないんだから。

 ただでさえアタシの投剣術もラルクの弓も命中率が低いのに、飛び回るわうるさくて気が散るわでまともに狩りができないのよ」


 曲芸剣士シャムーシェは真顔で言って、両手の指をびしりと向けた。


「なのでクロフ、代わりにアンタを焼いて納品すれば万事解決ってワ・ケ・よ」


「ふざけんな仲間をなんだと思ってるこのアマー!!

 おいサラもソラも大マジメにオイラを押さえてんじゃねー離せおーい!!」


 クロフを押さえていた共鳴双生児サラとソラは、互いに顔を見合わせ、そしてクロフに笑顔を向けた。


「サラね! トッコおねえちゃんからペットの埋葬の仕方を教わったの!」


「ソラたちがちゃんとお墓を作ってあげるから、安心してほしいの!」


「おいこらクソガキャー!!」


 わめくクロフの右手を、シャムーシェはそっと握った。


「心配しないで。やさしくするから。

 んじゃ、焼き鳥に人の腕がついてたら変だから、切り落とそうかね」


「おいこらシャムーシェふざけんな!?

 てめーオイラのバックグラウンド知っててその冗談が言えるってどんな神経してんだ!?

 おいマジでやめろ淡々と刀を振り上げるなマジでやめて!?」


「いいじゃない、減るもんじゃないし」


「減るわ!! ガッツリ減るわ!!

 片腕の分の質量がガッツリ減るわ!!」


「サラそれは違うと思うの、だって鳥さんは食べられちゃうんだから、減るのは片腕以外の方だと思うの!」


「違うのサラ、骨はきっと食べられないから、ソラは片腕と骨以外が減ると思うの!」


「おまえら純真なツラでなんてこと言いやがるんだー!?

 おい誰だこんないたいけな子らにこういう言動覚えさせたのは!?

 ジュードか!? あの妄言ヤローか!? あいつに一番なついてるもんな!?」


「安心しなクロフ、残った右腕は大事に活用させてもらうから。コ・コヤが」


「あの色ボケ魔術師に使わせるのはマジでやめて!?

 片腕一本ありゃあいつにかかれば地獄みてーな利用方法されるぞ!!」


「オッケー、じゃあもっとマシな活用方法を考えるってことで合意ねー」


「待て待て待て待て合意してねーよ!?

 ちょっマジでやんの!? なあ冗談だよな!?

 やめてやめてちょっと誰かー!! たーすーけーてー!!」


 振り上げられた曲刀を見て、クロフは悲鳴を上げ。

 そのときシャムーシェはぴくりと反応し、空を見上げた。


「……来たね」


「えっ?」


 木々の向こう、茂る葉の隙間、飛んでくるもの。

 姿より先に、ギャーギャーとけたたましく鳴く声。

 狩りのターゲット、ワメキドリが、急接近していた。


「サラ、ソラ。クロフをしっかりかかえときな」


「はいなの!」


「任されたなの!」


「えっ? えっ?」


 シャムーシェは曲刀を構える。

 ワメキドリ、興奮した様子で、耳をふさぎたくなるような大声量で、まっすぐに突っ込んでくる。


「あちこち飛び回られたら難しいけど、突っ込んで来てくれるなら……狙うのは、たやすい!」


 曲刀、投擲。

 回転しながら飛んだ刃は、あやまたずワメキドリの脳天をかち割った。


 狩った鳥の処理をしているところに、可能性狩人ラルクが合流した。


「おー、成功したか」


「アンタの指示通り、バッチリだよ」


「ねえ説明して? オイラにどういうことか説明して?」


 ラルクはクロフに顔を向けて言った。


「さっき弓で狙ったときな、こいつの可能性が視えたんだよ。危険な目に遭ってるクロフを助けに来る可能性が。

 だから一芝居打って、可能性を引き寄せた」


「……なんで? オイラを助けに?」


 サラとソラはきゃいきゃいはしゃいだ。


「きっとクロフのこと、仲間だと思ったの!」


「どっちもぎゃーぎゃー騒いでて、そっくりなの!」


「好きで騒いでんじゃねーよ!!

 おまえらマジでこいつらの影響受けてたらロクな大人にならねーぞ!?」


 シャムーシェとラルクは、ゲラゲラと笑った。

 そしてシャムーシェが先導して、歩き出した。


「んじゃ、狩りは成功したし、あとは焼いて納品するだけだね。

 てか、アタシらが焼くより、このまま持ってって料理人にでも焼いてもらった方がよくない?」


「あーいや、確かこいつの特徴で注意点があったような……」


 ラルクは依頼の資料を取り出した。


「えーっと、ワメキドリの肉はとてつもなく腐りやすく、死ぬと秒単位で溶けていくのですぐに焼くべし……」


 全員が、ワメキドリの死体に目をやった。

 死体は水をかけられた砂糖菓子のごとく、すでにどろりと崩れ始めていた。


「やっば! 急いで火を起こさなきゃ!」


「おいおいおいおいマジかよ!?

 オイラがこんだけ体張ってクエスト失敗とかマジで勘弁してくれよ!?」


「サラ、枯れ枝を集めて来るのー!」


「ソラは火をふーふーするのー!」


 わたわたと、彼らは今日も騒がしくて、にぎやかだ。

 彼らはカザミド冒険団。

 半端な者たちが集まる、最高に充実した集団パーティだ。

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