神さまのコイビト 2

『………っ⁉︎』






 突然目の前に現れたおれに、ユキオは驚いているようだった。



 大きな身体を小さく丸めて座ってたのに、瞬時に立ち上がって警戒している。






「ふごふごっ」






 耳に届く声はそれで。






『誰だお前⁉︎』






『おれ』に届く声はそれ。






 そうか。会うのは初めてか。



 おれには見えてて、聞こえてたから、勝手に知り合いのつもりでいた。






 人ではないからの勘で、おれもまた人ならぬ者であるということは分かっているらしい。



 伝わってくるのは、人でも雪女でもない怪しい人型の異種という認識。






 って、おれは人でもあるんだけどなあ。親いるし、普通の人間だし。



 でも説明が面倒だ。しなくてもいいか。そのうち分かるだろ。






 そのうち。な。



 だっておれとお前は………。






 これからのおれとユキオが分かるから、思わずんふって笑いがこみ上げた。






「そんなに警戒しなくていい。おれはただの神だ」

『はあ⁉︎』






 色々諸々すっ飛ばして言ったら、耳にふごふごって聞こえた。






 さっきまでめそめそしてたくせにくるくるっと変わる表情がかわいい。いや………見た目は毛むくじゃらで、表情なんか分かんないけど。



 その奥にある本質が。くるくる変わる。






「毎日毎日泣いてるお前の声がうるさくてな。しょうがないから来てやったぞ」

『なっ…泣いてねぇ‼︎』

「そんなに嘆くことはない。お前は十分美しい」

『はああああああ⁉︎何だお前‼︎頭おかしいのか⁉︎』

「仮にも神だと言ってるおれに頭おかしいって口悪いな。いや、喋ってはいないのか?じゃあ何て言うんだ?って、まあそれも知ってるけど」

『………⁉︎』






 ぶつぶつ言ったら分かりやすくユキオがビクってなって、毛で埋もれて見えない目がおれをじっと見た。



 異種であるおれに言葉が通じてることが分かって、最大級の警戒を示している。






 まあ、正確には言葉でもないけど………。やっぱり説明が面倒だからいい。






『………何、お前』

「だから神だ」

『バカなの?』

「バカって言うな」

『………っ‼︎』






 ユキオが黙る。






 真っ白な毛が逆立ってる。



 得体の知れないやつだって。






 こうなることは分かってたから驚かないけど。






『………何なの、お前』

「だから神だと言っている」

『やっぱりおかしいの?何なの?兄さんに気をつけるよう言わないと』

「別に取って食ったりしねぇよ」






 ………別の意味では頂くけど。






 おれに見える、おれだけに見える美しい姿のユキオが、食い入るようにおれを見てる。



 雪女特有の真っ黒な髪と、イエティ特有の黄金色の目。



 オスのはずなのにメスっぽい顔立ちなのは、母親の雪女のせいだろう。セツもそうだから。違うのは目の色か。






 黄金色の目。






 実際に人型になったらこれも黒になるのか?そこまではよく分かんないな。どっちでもいいし。



 どっちにしろユキオが持つ本質の姿は、セツに劣らず美しい。






「人型になりたいか?」

『はあああ⁉︎』

「してやってもいい」

『………何、言って』

「なりたいんだろ?」






 ユキオが、黙った。






 ずっと、嘆いてたもんな。自分は醜いと。こんな自分は嫌いだと。



 いつからか分からないぐらい前から、ずっと。



 それをおれは知ってる。分かってる。から。






「叶えてやろうか?」






 ゴクリ。






 毛むくじゃらの喉が、大きく鳴った。

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