神さまのコイビト 1

 泣き声。




 泣き声が聞こえる。今日もまた。






 どこからなんて、誰からなんて、そんなの分かってる。



 あいつだ。






 山奥。真っ白な、雪みたいなもふもふの毛に覆われたあいつ。



 雪男と雪女の間に生まれた変わり種。ユキオ。



 あいつが今日も泣いてんだ。






 この泣き声に気づいたのはいつだったか。ずいぶん前だ。



 だっておれは神さまだからな。聞こうと思えばすべての声が聞こえる。






 なんで神だって?



 知るかよ、そんなの。気づいたら神だった。それだけ。






 あいつがイエティなのも、おれが神なのも、それだけで、それ以上でもそれ以下でもない。ただそれだけ。ただそう在るだけ。



 なのに今日もあいつは泣いている。






『どうして俺はこんなにも醜いんだ』






 空に空気にあいつの嘆きが溢れている。






 あまりの悲しい声に、聞こえるのが嫌で意識をシャットダウンした。してる。はずなのに。



 あいつの声は、泣き声は、いつの間にかおれの元にやってくる。






 ばかだな、お前。



 姿形なんかどうでもいいのに。



 お前の魂は美しい。



 おれにはそれが見えている。雪のようだ。真っ白な雪が、お前の本質なのに。






『兄さんのようになりたかった。兄さんのように美しく。そしたら。………そしたら。俺も兄さんのように誰かを愛せたかも、しれないのに』






 嘆き。嘆きの声。






 兄さんか………。セツのことだな、また。






 イエティである父親の血を濃く引いたユキオとは反対に、雪女である母親の血を濃く引いたのがユキオの兄であるセツ。






 セツは美しい。



 確かにおれが見ても美しいと思う。外見が。そして外見だけでなく内面も。



 幼い頃に出会った人間に恋をして、ソイツを一途に想い続ける姿は、心は、美しいと形容する他にない。



 年に一度雪山に来るか来ないかも分からない人間に恋をして、好きで居続けるなんて、そうそうできない。






『俺も兄さんのようになりたかった………』






 泣いている。



 今日もユキオが泣いている。






 ばかだなあ、ユキオ。






 おれは知っている。知ってるんだぞ。隠したって隠せないのに。



 お前は美しい。お前も美しい。



 それを知っているおれが、ここに居る。






 はあってため息をひとつ。






 また神会議で怒られるなあ。



 ま、いいか。






 雲ひとつない空を見上げて、おれは指をぱちんって鳴らした。






 ユキオ。



 今行くから、待ってろ。

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