第37話

「ねねっ! これってさ、今回の罰金は無しってことでいいのかしら?」


 勇むシルクは、今にも踊り出しそうにうずうずしている。


「ああ、そういう約束だったもんな」


「やったー! ピエールさん最高! アスランも……格好良かったわ」


「僕は大したことはしていませんよ」

「またまた~」


 本当に何でもないかのようにアスランは謙遜する。シルクに肩を押し込まれて、困ったような顔をしていた。



 なにはともあれ、嫁の足が治らない原因が判って良かった。


 ピエールは嫁に肩を貸して立ち上がる。今日は役所に一言伝えて、このまま帰らせてもらおう。

 そんなことを考えていると、胸中に何かを抱えたエリルが立ち塞がった。


「私、ピエール先輩ともっと距離を置いた方がいいですか?」


 その瞳は嫁に向けられていて、口調は寂しげだった。


「エリルさん、今度良かったら家に昼食を食べに来ない? 私、あなたのこと知りたいわ」


「いいんですか?」


「ええ。もっと早くにこうしておけば良かったんだわ。嫉妬の炎に身を焦がしているより、よっぽど健全だもの」


 嫁はまだ思うところが多々あるのだろうが、綻んだ頬が結論を述べていた。


「ピエール先輩も、いいんですか? 私が家にお邪魔しても……」


「あったりまえだろ? 愛する嫁がこう言ってんだ。――俺からも頼むよエリル」


「い、行きます! 行ってピエール先輩の秘話をあます事なく聞きたいです!」


 エリルは前のめりに目を煌めかせる。



 フフッとほくそ笑む隣の嫁が、ピエールには不気味に見えた。


 女性関係での失敗談は数知れず。嫁には過去も含めてすべてを話しているから、どの話題が飛び出すのか恐怖でしかない。


「お、お手柔らかにな……は、ははは」


 針のむしろに遭う哀れな自身の未来が、透けて見えてくるようだった。

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