第31話

 可愛い女性や綺麗な女性とお近付きになりたくなるのは、生まれ持っての性格で、今更変えられない。

 結婚して愛する嫁に咎められても変えられないのだから、そうなのだ。


 容姿の良い女性と一緒にいると、それだけで気分が高揚するし、幸せな気持ちになる。



 様々な異論反論はあるが、自分は男として真っ当だと思っている。むしろご高説垂れて『女は中身だ』という男は信用ならない。


 だってそれは嘘だし、本気で言っているのなら気が触れているとしか思えない。『女は外見と中身だ』、これであれば大正解だ。


 良く勘違いされるが、俺はなにも女の身体を抱きたくてそうする訳じゃない。望まれたら受け入れてきたが、それも結婚するまでの話だ。


 今は家に愛する嫁がいれば十分。さっきの『夜のアフターケア』だって、本気で言ったわけじゃない。



「ピエール先輩、さっきから彼女の後ろ姿を見る目がいやらしいです」


 自転車を手で押しながらアスランの元に向かう途中で、エリルが剣呑に指摘した。


 仕方ないじゃないか。一歩先をゆくシルクの腰付きはローブを着ていても分かるほどに細く、男を誘うように動くのだから。

 これを見て涎を垂らさないのは、逆に失礼というもの。


 ま、そんな事を口にしようものなら、臨戦態勢のエリルに首根っこを噛みちぎられそうだから、言うに言えないが。



「ん? 先輩、今なにか失礼なこと考えませんでしたか」


「いんや……なにも」


 時に沈黙は金に匹敵する価値がある、とは昔の偉い人は良くぞ後世に教え伝えてくれたものだ。


「しかしま、相変わらずの嫌われっぷりだな、俺も」



 ピエールの姿を見て慌てて店を畳んで逃げる無許可露店主共を尻目に、一行はアスランの靴磨き店に到着した。


 アスランだけは事態を察してか、逃げずにいた。

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