第27話 それから幾年……

 それから幾年。



 ファラエスはシルクの見習いバックダンサーとして、忙しい日々を送っている。


 練習に、舞台の設営に、本番に。もはや孤児擁護施設は寝るための場所となっていた。

 もうじきに、シルクはファラエスを引き連れてこの街を発つらしい。ユルケは二人の門出を心から祝福する想いだ。


 二人はあたしが居なくても生きていける力を持っている。もはや私の出る幕はない。それよりも――。


 ユルケの関心は他の子らへと注がれている。



 孤児の最年長男子であり若干の問題児でもあるバッツが、パン屋を営む夫婦の目に留まり、家族として受け入れられる話が持ち上がっていた。


 バッツには幼少の頃、別の夫婦に引き取られるためのお試し期間で、大暴れしてご破産になった経緯がある。


「俺は死ぬまでここで暮らす! 皆んなと離れて他の人と家族になるなんて……嫌だよ」


 ベッドの上で膝を抱え、ユルケとダルクを牽制した。バッツは基本良い子だが、寂しがりな面がある。


 手に職を持たないバッツが、パン屋として生きていくのは悪くない選択に思えるが。



「一筋縄ではいけそうにありませんね」


 ダルクが後頭部に手をやってぼやいた。再三の説得もこの反応では、諦めたくもなる気持ちも分かる。


 だけどもユルケは諦めない。この選択でバッツの将来は大きく変わる。必ず良い方に導かなければならない。その為のあたしだ。


 これまでも、これからも、ユルケの考え方は変わらない。弱い人に手を差し伸べ、前向きに生きられるよう力を貸す。

 バッツもいつかきっと分かってくれる。そう信じて。





ユルケ主体のお話は一先ずお仕舞いになります。

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