第15話 それから幾年……



 ※



 それから幾年。



 夜空を染める黄砂が何でもないかのように、シルクの野外ステージは大観衆の拍手で幕を閉じた。


「みんなお疲れ様。後片付けも手抜かりの無いようにね」


 シルクは踊りで掻いた汗もそのままに、目を輝かせて働く部下たちに指示を飛ばす。

 裏方が三人、演奏者が三人と歌唱役が一人。それとついこの前に、見習いだったバックダンサーを一人正式に採用した。大所帯になったものだとしみじみ思う。



 誰が言ったか、黄砂舞う街へ行けば『可憐に舞う花』あり、という言葉が生まれていた。『可憐に舞う花』とは、シルクの組織する芸能団体の別称だった。


 その別称とも、名残惜しいが今日でお別れだ。


 明日部下を引き連れて、長らく活動してきたこの街を発つ。



 ユルケ率いる旅団が解散となってしばらく、実は自分はかなりの旅行大好き人間なのだと思い知る。


 新たな土地で、新たな人たちと、ステージの中で一体となる。その感動がずっと燻っている。そして隣には気の合う仲間たち。私の求める全てが、この地の外で待っている。



 風の向くまま気の向くまま。新たな装(よそお)いで、ユルケ達とした旅の続きを夢想する。

 戦争、病魔、不景気、各地を回って癒しが必要な人々を助け、元気付ける――といった高尚な理念を、シルクは持ち合わせていない。


 だけれども。


 昔の自分のような子が目の前に現れたなら、ユルケがそうしてくれたように、正面から手を差し伸べる。



 ユルケには遠く及ばないけど、それが私の旅団のたった一つの信念だ。





シルクのお話は一先ずお仕舞いになります。

次のページからは『ユルケ』主体のお話になります。

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