第10話
仲間の居ない中での踊りが想像できなかった。独りで観衆の前で踊っても、惨めになるだけなんじゃないだろうか。そう思うとたまらなく怖くなる。
「私、これから本当にどうしたらいいんだろう」
踊らない自分になんの価値があるのか。両手で顔を覆ってみても、得られるのは深いため息ばかりだ。
懸案事項は一つにあらず。現実問題、一ヶ月以降の生活費はどうやって稼いでいけば良いのか……。
まるで大海に放たれた稚魚にでもなった気分だ。
「僕は、お客様の踊る姿を見てみたいです」
「ありがと。あなたの言葉はお世辞じゃないって分かるわ。でも……」
一度根付いた不安の種は容易には取り除けない。
私に魅力がないから客のカンパが予想より得られず、旅団は資金難に陥いった。仲間から、私では立て直しは無理だと見限られた。
頭の中で、同じ思考がぐるぐるぐるぐる巡って止まない。
どんなに辛い時でも、踊りは楽しいことだと思えていたのに、ここに来て分からなくなってきた。
踊るにしても、私はこれから何のために踊ればいいんだろう……。
生活費のため? それは本当に踊りで稼ぐ必要のあることなの?
「先ほど、この街でのステージを『一番思い入れがあって毎回お金も稼げる』と仰ってましたよね。昨晩のステージはどうだったんですか?」
「それは……思い返すと夢見心地になるくらい最高だったわ。自分で言うのもなんだけど、踊りも良かったし、仲間の演奏も最高に輝いてた。お客さんのノリも過去一番ってくらい良かったのよ。誰が見ても大成功だったわ!」
なのに。どうして解散なのか……やっぱり納得がいかない。
「それなのに解散するのは、たしかに釈然としませんね」
「この街に来る前から、解散は決定してたの。私も色々と嫌な事実を突きつけられてね、その時は渋々受け入れたわ。でもよ、昨晩あれだけ盛況だったんだから、解散を考え直してくれてもいいと思わない? 思うでしょ普通! ああん、もう! ユルケの考えが分からないわ!」
「それでリーダーの方と喧嘩になったんですね」
シルクは苛つきながらも頷いた。
「お話を伺ってみて、僕はやっぱり踊りを続けられた方が良いと思います」
「……その理由を聞いても?」
「最初に申し上げましたが、『お客様は素敵です。魅力がないということはないと思います』。それに、少なくともこの街でのステージは盛況だったんですよね?」
まさかもう一度言われるとは思っていなくて、柄にもなく自分の顔が赤くなっていくのが分かる。
「うっ! そ、そうかも知れないわね。うん、まあそうよ」
「よく考えてみてください。毎回この街ではお金を稼げるという話でしたが、ならどうして、ずっとこの地で活動されずに移動するのですか?」
それは……分からない。
ずっとそうして来たし、各地を巡るのは旅行気分が味わえて楽しかったから、あまり深く考えてこなかった。
シルクの旅団は立ち寄った街がどんな所でも、だいたい一週間を目処に移動する。
「あ! そう言えば昔になにか聞いた気がするわ。戦争、病魔、不景気、各地を回って癒しが必要な人々を助け、元気付ける、その為に出来たのがこの旅団だ……って」
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