第11話
思い返してみれば、旅団と出逢った頃の私は癒しを求める側の人間だった。
十一歳の誕生日に初めて親にショートケーキを食べさせてもらえて、すごく嬉しかった。寝て起きたら、家族は置き手紙を一枚残して居なくなっていた。
家族を守るために食い扶持でしかない子供を泣く泣く捨てる、たまに聞く話だったから、幼心にもすぐに理解できた。
私は生憎と太々しい性格だったらしく、涙で地面を濡らした翌日には、スラムで生き抜く術を得ようと体が動いていた。
食べられる生ゴミと食べられない生ゴミの違いを、腹を壊しながら学んだっけ。
指を喉奥に突っ込んで嘔吐する術も一緒に覚えた。もう使わないけれど、体はいまだに覚えている。
ドブネズミのような生活をして数年、ユルケの率いる旅団が街へとやってきた。
私が虜になったのは一瞬だった。
即席とは思えない華やかなステージ台、心を掴んで離さない軽やかな演奏、情熱的に舞い踊るユルケの艶姿。
あの時はまだユルケが花形をしていた。
私はステージが終わってすぐに、踊りの仕方を教えてもらいに行った。私を見るユルケの目は、驚きと哀れみを含んでいた。
そこで私はユルケ率いる旅団に受け入れられたんだ。ボロ服から新しい服にと見繕ってもらう合間に、旅団の創設秘話を聞かされた。
――幼さもあってか、今まで忘却していた。
「でもさ、旅団自体がなくなったら、意味がないじゃない」
堂々巡りの果ては、いつもこの言葉に帰結する。
「旅団がなくなっても、その意志を受け継ぐ人がいれば、無意味とは言い切れないんじゃないでしょうか」
「私に旅団の意志を受け継げって、あなたはそう言いたいのかしら?」
「とんでもございません。どうするのかは、お客様がお決めになることですから。ところで、お待たせいたしました、靴の修復が終わりました。お気に召していただけると良いのですが」
シルクはそう言って渡された靴をみて、再び目を丸くした。
「すごいわ! 完璧よ……。こんなに近くで見てるのに、傷のあった場所が分からないわ! アスランと言ったわよね、あなたって天才なの?」
「身に余る光栄です」
満足気に答えるアスランに、シルクは軽いハグで喜びを伝えた。
靴をよく見ると、色艶も良くなっている。まるで靴だけが、ユルケからプレゼントされた時に巻き戻ったかのようだ。
「これね、最初はまともに履くことすらできなかったの」
この靴を履いて踊れるようになって一人前よ、そうユルケに言われた時は悪い冗談だと思った。
爪先の形が、どうしても硬く窮屈な靴と合わなくて、無理に履こうとしては痛みで泣いた。
少しずつ爪先が変形して、なんとか履けるようになった頃には、この靴無しでは綺麗に踊れなくなっていた。
その代わり、自分の体の一部のようにこの靴は応えてくれる。
「すこし、踊ってみても良いかしら?」
「本当ですか。是非、お願いします」
綺麗になった靴を履いていると、身も心もウズウズして辛抱堪らなかった。
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