第2話


「 給電予備率1%切りました! 」

「 3区への給電を止めろ 」

「 停止します 」


安全で安定した電力供給には、数パーセントの予備率が必須だ。

急な電力変動、例えばエアコン入れたり、モーター回したりすると電力消費がいきなり跳ね上がる。

電力の消費量が供給量を上回ると、全部が一斉にダウンする。


そうなると大騒ぎだ、ブレーカーを上げるだけじゃ済まない。

施設の点検やら、再起動にやたら時間が掛かる。

再起動しても供給量が足りないと同じ事が起きる。

チョビットづつ確認しながら、順番に送電を再開するから、これも時間が掛かる。


実は部屋の照明は殆ど影響がない、10部屋で100Wの白熱電球・・・・を点けると1000Wだ。

小さなコタツ1台で400W、大きくないドライヤーで800W。

IHヒーターだと2200W、22部屋で100Wの照明を点けたのと同じだ。

コタツやドライヤーが無い家は見た事が無い、22部屋有る家も見た事が無い。

まぁ、そう言うことだ。



田中を見る、手術はまだ終わっていないらしい。

一旦上がった給電予備率がジリジリ下がってくる。

いや、発電量が足りないだけか。


「 メディックからの報告は? 」

「 手が離せないそうです 」


炉のクーリングが終わらないと、メディックは勇者達を手当て出来無い。

熱すぎて手が出せないからな。

手が離せない、つまり治療を始めたけど勇者達はヒデー状況ってことか。


「 アルファ炉、バイタルサイン乱れています! 」

「 アルファの出力を30%まで落とせ 」


電力の予備率が一気に下がった、もうそれほど時間は稼げそうもない。

ジリジリと時間が過ぎ、ジリジリと予備率が下がる。

手術はまだ終わらない、コーヒーのお替りもまだ届かない。


「 アルファ1号から通信要求です! 」


『 ・・・・・・もう少し粘れるぞ 』

「 いや。 2号から4号は出力が10%まで落ちた。 限界だ 」


「 予備率、1%切りました! 」

『 ・・・・・・まだだ。 俺1人でも何とかしてみせる。 電気を止めるな! 』


和也の意気込みは理解してる、気持ちも判る。

でもな、目の焦点合ってないし、身体のあちらこちらがボロボロだ。

誰が見ても無理だ。

誰だ、こんなシナリオ書いたやつ。


「 予備率0.7%! 0.6%! 班長! 」


部屋中の目が俺に集まる。


「 やむを得ない、2区への給電を停止する 」

『 待て! 止めるな! 』


管制官席の操作オーバーライドをオンにする。

これは俺がやらなきゃな。


『 待て!! 頼む、待ってくれ!! 』


「 2区の給電を停止する 」 ポチッとな。


「 あ~。 間違えて、1区の給電を止めてしまった。 どうしよう?( 棒

) 」


「「「 ・・・・・・ 」」」

『 ・・・・・・ 』


誰か何か言ってくれ、これじゃ俺が痛い奴になっちまう。

和也の通信も切れた、冷たい奴だ。


「 班長。 あんたって人は・・・・・・ 」

「 うるせ。 こういう奴なんだよ、俺は 」


10分後、田中の部下から手術終わったと連絡が入る。

手術は成功したらしい。

報告と一緒に送られてきた動画じゃ、和也の妹のバイタルサインは安定してる。

生体間移植は本当だったのか? 提供側の映像が無い。


んでも、俺が出来るのはここまでだ、何とか間に合うか?

ポケットからマスターキーを取り出して、田中に押し付ける。


「 と言うことで俺は逃げるからな 」


これは仕組まれた失敗だ。

オリンピックの失敗も、各国のお偉いさん達の前で勇者炉が不調になるのも。


このままジットしてたら、俺は捕まる。

逮捕だけなら良いが、コレだけの事を計画した奴等だ。


俺は責任者で無能力者、逮捕だけで済むなんて事は無いだろう。

夢だけ追いかけてる10代でも、周りが見えない20代でもない。

イヤなことも、辛いことも乗り越え耐えてきた、まだ生きてるおっさんだ。


今回のシナリオを誰が書いたのか知らないが、生け贄になる気は無い。

いや、おっさんだから切り捨てられるのか。


班員を見渡す。


「 危機的状況は過ぎた。 後は勇者パーティの復帰を待って、再稼働すれば良い。 再稼働が何時になるかメディックに確認したら、大統領に報告してくれ 」


「 大統領にですか? 俺が? 」

「 副班長なんだ、それくらいはやれ。 俺は逃げる 」


ミスした責任者は逃亡する。

田中の肩をポンと叩き、部屋を出る。


部屋を出たらロッカーまで猛ダッシュ、部下の前だから余裕かましていたけどかなり不味い。

途中で制服を脱ぎ捨てて、ダストシュートへぶん投げる。

こいつに位置監視用のセンサ付いてるのは知ってる。

安全のため・・・・・だそうだ。


私服に着替えたら休憩室へゴー。

カラにしたバッグに、自販機で買ったエナジーバーとチョコレートを詰め込む。

水も忘れずに買わないと。


「 班長! メディックから報告です 」

「 田中に任せたはずだ 」


班員が休憩室まで追いかけてきた。

でも、手は止めない。


「 応急処置が終わった勇者和也が、話したいそうです 」

「 もうクーリング終わったのか? 」 早過ぎるだろ。


炉温が下がる前に出て来やがったな。

それとも、下がるまで待てないほど重症だったのか。



バッグを背負って廊下に出る、和也と和也のパーティメンバーがいた。

全員、ストレッチャーに寝てるけどな。


「 ありがとうございました裏杉班長 」

「 どう致しまして 」


何時もは生意気な和也だが、随分と大人しい。

和也達のパーティーは巻き込まれただけか?


「 妹のために、あんたに迷惑かけちまった。 本当にすまない 」


和也はストレッチャーに寝ながら、それでも頭を下げようとする。


「 理解出来てるんなら、そこを退いてくれ。 そろそろ逃げないと本気でヤバい。 ああ、手術は成功したみたいだぞ 」


知ってる・・・・。 だからこれを持ってってくれ 」


和也は動けない。

替わりに、メディックの1人が俺に手渡したのは銀色のペンダント。

なんだコレ?


「 賢者が創って、聖女が加護を付与したお守りだ。 これからのあんたには必要だ 」


無能力者の俺でも分かる。

かなり貴重品だ、世界で一つだけの特注品、勇者仕様だな。

毒殺なんかを警戒してる色んな国の首脳陣に売れば、豪遊してても一生暮らせる。


「 良いのか? 」


「 ぜひお持ち下さい 」


和也の奥のストレッチャーから、聖女の声がした。


「 和也の為に用意した物ですが、これからは貴方にこそ必要でしょう 」


そこまで言うんなら、受けとった方が良いだろうな。

効果は状態異常阻害と回復、傷の自動治癒だそうだ。

世界一のレベルの。


俺はこれから、どんな目に合うんだ?


「 班長。 どのルートで逃げるんですか? 」


「 海底トラムにしがみ付くつもりだ。 あと元班長な、今の班長は田中だ 」


発電所は海上にある。

アクセスは物資輸送用の海底トラムと、海上道路の2通りしか存在しない。



勇者達は 『 国民の為 』 って言う大義により、家族と共に発電所で暮らしてる。

発電所には街にあった施設は全部揃ってる。

映画館、ゲームセンター、図書館にコンビニと公園にグラウンド、もちろん病院も。

復興途中にある現状を考えれば、贅沢過ぎる設備だ。


でも、勇者達は発電所から出られない。


魔力がエネルギーとして使えると分かった時から、世界各国で勇者の引き抜きが始まった。

発電に使えるほど、大量の魔力と最大瞬間魔力量を保持してる勇者は少ない。


金、贅沢品、酒、女や男で勧誘なんかは良い方だ。

家族や知人友人を誘拐して、脅すなんてのは当たり前に横行した。

いや、してる・・・だな、今も続いてる。


魔物による混乱を乗り越えたのは、善人ばかりじゃない。

大量にゴミが混ざってる、奴等は自分の利益の為なら何でもやる。

能力者はエネルギー源、俺達無能力者は生ゴミ以下だな。

臭くなる前に処分される。


そんなゴミが国のトップあたりに居座ってる。

らしい。


勇者達は、安価で環境に優しいエネルギー源として、今も世界中のゴミに狙われ続けてる。

家族はもちろん、知人や友人もだ。

だから彼らは発電所から出られない。


勇者達の力は凄まじい、一旦敵に回したら国が滅びる。

だから、徹底的に管理され優遇される。

どっかの国じゃ、クスリ漬けにして仮想現実世界に閉じ込めて発電させてるって言うし。

日本はマシな方だ。


「 トラムは避けて下さい 」


「 それは、聖女・・の予言か? 」


勇者達は能力を使える、各々のキャラクターにあった特別な能力だ。

聖女・・は癒やしを得意としてる。

あと予言もだ、未来予知とも言う。


「 水が貴方の助けになるでしょう 」


「 そりゃ助かる 」


受け取ったペンダントを首に掛け、俺は連絡道路へ続くドアに向かって走り出す。


「 大丈夫です! 心配いりません! 」


廊下に響く聖女の声、随分と元気そうだ。


「 世界一のお守りを渡しておいて、 『 心配いらない 』 だって? 」


道路へ続くドアを開け、チャリンコ置き場へ向かって走る。


「 スゲーお守りが必要な目に会うってことじゃねぇか。 アホ聖女が 」


直ぐに治るって言ったって、ケガすれば痛いんだ。


− − − − − − − − − −


チャリンコで海上道路を走る、空は青いし風が心地良い。

今日は晴れそうだ。

ゴチャゴチャやってたら、いつの間にか日が昇ってた。


エネルギー源は無くなったが、空と海が綺麗な青になったのは歓迎だ。

色々と大変だったのは魔物が原因であって、空や海の青いのが悪いんじゃない。


昔は、再生可能エネルギーなんてのが有ったらしい。

大昔は永久機関ってのも有ったらしい。

残ってる文献が少ないんで確かじゃないが。

今じゃエネルギーは使えば無くなるんだが、昔の方が技術が進んでたって事か?


水が流れるのも、風が吹くのも、海流が有るのも理由が有る。

その邪魔をしてエネルギーにすれば、何処かで歪みが生じると思うんだが。

『 他の発電方法より地球に優しい 』 って事らしいが、それはお前が決めることじゃない。


水力発電の為に川を堰き止めたら、河口の砂浜が無くなる、海底はもっと酷い。

風を阻害しても風下の空気は無くならないだろうが、何処かで何かが無くなりそうな気がする。

それに対処するのは、子か孫か。

彼女もいない俺には関係無いけどな。




今の日本の食料事情はそんなに良くないが、最悪でも無い。

スラムじゃ無い限り、餓死者が出るなんて事はない。

どの魔物の何処が美味しいか、研究され尽くしてるからだ。


海でも陸でも、魔物の駆除は推奨されてる。

国有地での釣りが許可されてるのもその一環だ。

海の魔物を討伐してる、って事だな。


派手なスキール音を立てながらコーナーを曲がってきた大型バンが、背後を通り過ぎる。

全部で5台、本気だな。

真っ直ぐ発電所に向かってる、海上道路は直線なんで曲がれないけど。


「 なんだありゃ? 」

「 発電所で何かあったのか? 」

「 勇者様達が、また何かやったんだろ 」


海上道路で釣りしてた人達がチョットだけ騒がしくなる、チョットだけだ。

今日はまれに見る大漁中なんで、1人として手も目も海から離さない。


「 勇者達に何かあったんかな? 」

「 さぁな 」

「 お!?  来た! 」


ここに居る釣り人にとって、雲の上の勇者達より今日の食事が重要だ。

殆ど見かけない電気自動車、それが5台走ってたって腹は膨れない。

そう言うことだ。


「 兄ちゃん、やるじゃねぇか 」


隣のおっちゃんが話し掛けてくる。

名前は知らんけど、ちょくちょく見かける顔なじみだ。


「 道具が良いからな 」


俺が釣り上げたのはイカモドキ、180cmの大物だ。

帰り支度を始める、コレ1匹釣れば帰っても不審には思われない。

軽くてコンパクト、小さいけど頑丈で壊れ難い、獲物の食いつきも良いこの釣り竿は貰い物だ。

ダンジョン産の魔物から作られてる。


「 じゃ、お先 」

「 おう! またな 」


真っ直ぐ帰ってたら、アパートで捕まってたな。

世の中の全てが、自分の思う通りに進むわけ無いだろうに。

時間調整は完了、バカは放っておいても勝手に踊ってれくるんで助かる。




深夜、ネオ東京と外界を分ける壁の側で待機中。

何を待ってるのかは俺にも判らん。

一応、荷車か車の裏にでもしがみついて脱出できたら良いな、とは思ってる。


この辺りはまだ復興の手が入っていない、昔に建物だった・・・物の残骸が残ってる。

暗いし、人は居ないし、隠れるのにはちょうど良い。


第1区、行政機関とそこで働く奴らの居住区だ。

警報無しでいきなりの停電だ、ケガ人が出たのは確実だろう。

もしかしたら死者も出たかもな。


奴らは、自らを上級国民と称してる。

『 見ろ! 地上に居る奴らがゴミのようだ! 』 とか言って、高層ビルに住みたがる連中だ。

あんな不安定な物に住みたがるなんて意味判らん。


今じゃ高い建築物は魔物に狙われる、高層建築なんか作れやしない。

物理的に見下ろせないから、ストレスが貯まってんのかもな。

俺はそんな奴らを怒らせたと、ほぼ確実に。


イカモドキは買い取り所で換金した。

今日は大漁だったらしいが、モドキを持ち込んだのは俺だけだったようで、買い取り額は上々だった。

部屋にも、ギルドの口座にもアクセスしていない。

どうせ待ち伏せされてる。

モドキが釣れて助かった、逃走資金が少なかったから。


街中をウロウロしながら、少しずつ壁に近づいた。

街中と外界を分けるゲートの守りは厳重だ、昼も夜も。


「 お疲れ様でした 」

「 はい、お疲れ 」


って言って、出てこられる発電所とは違う。

出退勤時間に重なってたのも、ラッキーだった。



ネオ東京と外を区切ってる壁は、崩れた昔の建物をベースにして、魔物の骨をブレンドした特殊コンクリートで作られてる。

高さは12m厚みは10m、国は壁をコレ以上高くしても意味はないと説明してる。


確かに意味は無い。

10mの特殊コンクリートを突破してくる魔物相手じゃ、高さが20mでも200mでも同じ、意味は無い。

厚みが200mなら、効果有りそうだが。


「 ここです。 ここから半径200m以内に反応がありました 」


瓦礫の陰から声の方を覗く、贅沢な携帯式大型電灯を使ってる。

足元を照らす光に浮かび上がる、白を基調とした制服姿。

腰には剣と杖を装備してる。

特務警察だ。


「 ツーマンセルで捜索。 殺すなよ? 」

「「「「 了解 」」」」


散っていったのは4人、残ったのは2人、2人の内1人は隊長格だろう。


( 人数が少ない )


特務警察の移動車両は10人乗り、ドライバーとアタッカーを除いても8人のはず。


( 移動するか )


残る2人が背後に回ってるかも知れないしな。

昼間見たバンは5台だった、残りは包囲網でも敷いてるんだろ。



目の前には、ネオ東京へ水を届ける用水路。

靴は捨てた、俺は追い詰められてる。


街中で買い替えた靴だったが、靴底に魔法陣が仕込まれてた。

歩く度に信号を発信してた、圧電素子みたいなもんだった。


チョット気づくのが遅かったか、ギリギリで間に合ったのかは不明だ。

血の跡を残さないように、脚の裏に木の板をシャツの切れ端で結びつけて走った。

瓦礫の中を裸足で歩くよりマシだが、痛いものは痛い。


特務警察は3小隊の24人で俺を追ってるようだ。

残りはアパートと発電所か?

上級国民様はかなりお怒りらしいな、それともこれもシナリオの内か?


特務警察のセンサは、リチャージタイムが必要らしい。

それを利用して、行き先を悟られないように移動を続けた。

だがもう選択肢はそれほど無い、流石は特務警察と褒めてやる。


目の前の用水路を下ればネオ東京へ戻れる、途中にある何でも溶かす浄化用スライムプールを無傷で通れたら。

用水路を上ればネオ東京の外へ出られる、対魔物用クラッシャーを無傷で通れたら。

あと水が汚い。

魔物も動物もまとめてクラッシュしてるから、内臓とか排泄物とか毒とか、イロイロ混ざってる。


聖女から貰ったペンダントを見る。

靴の替わりの木の板で大きな傷は無い、それでも走れば皮がむける。

スゲー痛かったけど、しばらく待ってればキズは治った。

効果は抜群だ。


コイツがあれば、スライムに溶かされないで通り抜けられるのか?

クラッシャーの方は無理だ、扇風機の羽根みたいな奴が、隙間無く幾つも重なり合って回ってる。

キズは治っても、バラバラになったら効果はなさそうだ。

それに最低でも2台止めなくちゃ、水流が強すぎて近寄れもしない。


( 今日はここまでか、日を改めて再チャレンジだな )


用水路を下ることにする、バッグを下ろして防水気密性を確認。

貴重な物資を、汚水でダメにする気は無い。

一旦街に戻って潜伏しよう、脱出は別の日だ。


水が流れる音に混じる異音。

そんな音がするはずは無い、普通の魔物はクラッシャーを通れない、その為のクラッシャー・・・・・・だ。

通ったとしたら、かなり不味い魔物が入り込んだ可能性が高い。


音がした方を見る。

水の上に立つ人影、能力者か魔物か。


「 あんたが裏杉班長だね? 」


「 裏杉だが班長じゃない。 元班長だ 」


能力者で確定だ、女性?


「 まぁ、どっちでも良いんだけど。 一緒に来るでしょ? 」


「 どうかな 」


まだ捕まるつもりは無い。


「 ここから逃げたいんでしょ? 私が出してあげるって言ってんのよ 」


誰に・・訊いたんだ 」


「 詳しくは聞いて無いわ。 それを持ってる人の手助けをしてくれって、頼まれたのよ 」


俺に向かってユックリ歩いてくる人影、暗くてよく見えないが女性だ、多分。

人影が指差したのは俺の胸元のペンダント。


「 私はサチコ、 貴方を 「 え? サセコ? 」 違う!! 」


俺の意識はそこで途絶えた。

魔法陣が見えた気がする。


− − − − − − − − − −


緊迫した場面で、相手の気を逸らすのは有効だ。

逃げるにしても、戦うにしても。


但し、能力者には気をつけろ。

条件反射で魔法を打たれる事がある。

女性を傷つけるのは、ジョークでもやめたほうがいい。



あの夜から3日後。

俺はゴツい兄ちゃんが、チャリで引っ張る荷車に乗って西に向かってる。

引っ張ってる兄ちゃんは西条、身体強化の能力者だそうだ。

俺を壁の外へ連れ出したのはサチコ、水魔法の能力者だそうだ。


水違いだった。

彼女が来るのがもう少し遅かったら、俺は用水路に飛び込んでた。

スライムの餌にもならないで済んだ、御守も役に立った。

御守の出番がこれ以上ないことを祈りたい。


脱出の手助けに感謝し、ジョークも謝った。

何とか許されたが、バッグの物資の半分が彼女の物になった。

甘味は貴重なんだと。


女性かどうか判断出来なかったのは、暗かったからでも、正面から見たからでも無い。

サチコの体型に寄るところが大きい。

カロリーバーにも糖分は入ってる、入っちゃいるけど甘味じゃない。

太る可能性が高いんだが黙っておいた、勝手に太れ。


「 今日の夕方には村に着くわ 」


「 やっとか 」


「 これでも、超特急で飛ばしてるんだけどな! 」


「 それは分かってる。でもな、尻が限界なんだよ 」


彼らはネオ東京に、毎週魔物の肉を届けてるんだと。

5台のキャラバンを組んで。

8㎡程度の荷台には、黒ずんだシミが残ってるのはその名残だ。


サチコと西条は頼まれて・・・・、俺を助けに来たらしい。

誰に頼まれたのか訊いても、笑って誤魔化された。

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